子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(以下、ワクチン)の接種および定期検診により根絶が可能であるが、わが国ではどちらも施行率が低い。新潟⼤学⼤学院産科婦⼈科学教室の工藤梨沙氏は2月4日に開催されたMSD主催のメディアセミナーで、わが国における子宮頸がんの状況および、2月24日に発売予定の9価HPVワクチンの有効性と安全性について解説した(関連記事「日本の子宮頸がんは今世紀中に排除可能か?」)。

40歳未満の子宮頸がん罹患率はOECDの中でワースト3位

 HPVは100種類以上の型があり、男女とも感染する可能性がある。多くは疣贅(いぼ)の原因となり、子宮頸がん(女性)、陰茎がん(男性)などの発がんに関与する高リスク型は15種。性交経験がある女性の約80%がHPVに感染し、その90%以上は自然消失するものの、子宮頸がんを発症して浸潤がんに進行すると妊孕性を喪失するなど看過できないウイルスといえる。

 わが国では、初期子宮頸がんの年間治療数は約1万1,000例に上り、2018年における40歳未満の子宮頸がん罹患率は経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中35位と高い。また、罹患年齢の若年化も大きな問題とされ、罹患率がピークを迎える30~34歳では10万人・年当たり150人前後とみられ、2018年の子宮頸がんによる死亡者数は2,871例に上っている。

日本のワクチン接種率はわずか0.6%、定期検診も約40%

 子宮頸がん予防と重症化の抑制には、ワクチン(一次予防)および定期検診(二次予防)が鍵を握る。ワクチン接種の有効性については、スウェーデンの報告でワクチン非接種例と比べて浸潤性子宮頸がんの発症率が10~30歳で接種した例では63%、10~16歳で接種した例では88%、17~30歳で接種した例では53%低下するとの結果が示されている(N Engl J Med 2020; 383: 1340-1348)。さらに、わが国でもワクチン接種の有効性を示すデータが多数報告されている。

 定期検診については、英国の検討から、国家による子宮頸がんの組織型検診導入以降、受診率が80%を超えると子宮頸がんの発症率が低下することが示されている。

 このように、ワクチンと定期検診の重要性を示すデータがあるにもかかわらず、わが国ではどちらの施行率も低い。HPVワクチンが世界で接種可能となった2006年以降、100カ国以上が予防接種プログラムに組み入れ、接種率はルワンダで99%に達するなど、発展途上国でも高まりつつあるのに対し、わが国ではわずか0.6%にとどまっている。また、2019年の子宮頸がん検診受診率は約40%となっている。

 世界保健機関は昨年(2020年)、加盟国に対し2030年までにワクチン接種率90%(15歳までの女子)、検診受診率70%(35歳、45歳の女性)を達成目標とし、子宮頸がん制圧に向けて取り組むよう提言した。わが国ではいずれの目標も実現困難な状態にあるが、これらを達成できれば子宮頸がんの根絶が可能だという。

 日本では、主に安全性に対する懸念がワクチン接種率の低さにつながっている。2016年に全国の12~18歳の男女を対象とし、ワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の多様な症状〔疼痛および感覚(光、音、におい)の障害、運動障害、認知機能障害、自律神経障害など〕を呈する割合を調査した疫学研究によると、多様な症状を呈するのは10万人当たり、女子ではワクチンの接種歴なしが20.4人、接種歴なし/不明が46.2人、ワクチン接種歴ありが27.8人、男子全体では20.2人と推計され、ワクチンの接種歴がなくても症状を有する者が一定数存在することが報告されている。

9価HPVワクチンのカバー率は90%

 HPVワクチンについては、既存の2価ワクチン(16、18型)、4価ワクチン(6、11、16、18型)に加え、2月24日に9価ワクチンの発売開始が予定されている。この9価ワクチンは、子宮頸がんの危険因子となる高リスク型をカバーしたことが最大の特徴だ()。

図. 9価HPVワクチンのカバー範囲 

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(メディアセミナー発表資料)

 特にアジア人で感染率が高い52、58型をカバーしたことで、子宮頸がんの危険因子となるHPV型のカバー率は4価ワクチンの約65%に対し、9価ワクチンでは約90%に達し、既に世界80以上の国・地域で承認されている。

 9価ワクチンの有効性と安全性は、4価ワクチンを対照に、子宮頸部上皮内病変の中等度異形成以上(CIN24)の組織診異常および外陰・膣の上皮内病変におけるHPV感染数を比較した国際共同試験V503-001で検証された。6、11、16、18型については非劣性、31、33、45、52、58型については優越性を検証し、9価ワクチン接種群では前者の型で非劣性を達成、後者の型では4価ワクチン接種群と比べて97.4%減少し有効性が認められた。

 有害事象については、発現率が高かった注射部位の副反応、疼痛は両群に有意差がなく、また日本人集団(両群各127例)においても増加は認められなかった(注射部位の副反応:9価ワクチン81.9%、4価ワクチン79.5%、疼痛:同81.9%、78.7%)。

 以上を踏まえ、工藤氏は「子宮頸がんは一次予防のワクチンと二次予防の検診を組み合わせることで排除可能であり、海外においてはその見込みが立ってきている。一方、わが国では罹患率、死亡者数とも増加傾向にあるが、9価ワクチンの導入により90%以上の子宮頸がんを予防できる可能性がある」と期待を示した。

編集部