抗線維化など多様な作用を有するスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、モデルマウスにおいて癒着形成を抑制するが、ヒトでは評価されていない。米・University of Colorado Anschutz Medical CampusのFrank I. Scott氏らは、英米で2件の大規模後ろ向きコホート研究を実施。腹腔内手術時のスタチン使用は、術後癒着関連合併症(Adhesion-related complications;ARC)の8~19%低下および術後小腸閉塞の12~20%低下に関連していたことをJAMA Netw Open2021年; 4: e2036315)に報告した。(関連記事「非心臓手術時のスタチンに益あり」)

線維化関連サイトカインを標的に

 これまで腹腔内手術後の患者の90%以上で癒着が生じ、うち最大5%に小腸閉塞や不妊症などのARCが続発するとの報告がある。癒着形成の病態には異物曝露、手術部位および組織低酸素症の関与が指摘されており、これらは炎症性および線維化促進サイトカイン優位の環境をもたらす。Scott氏らは「ARCを抑制する鍵は、線維化促進サイトカインの直接阻害にあると考えられる」と述べている。

 マウスやラットのモデルでは、スタチンは主要な線維化関連サイトカインに作用し、癒着形成を抑制することが示されている。しかし、こうした所見はヒトでは評価されていない。

 そこで同氏らは、英米で2件の大規模後ろ向きコホート研究を実施し、ARCリスクを高める併存症や外科的因子を調整した上で、腹腔内手術時のスタチン使用と術後のARCリスクの関連を検討した。

 実施に際し、英国では一般診療の電子カルテのデータベースThe Health Improvement Network(THIN)、米国では民間医療保険請求データベースOptum's Clinformatics Data Mart database(Optum)を使用。それぞれ1996年1月~2013年12月と2000年1月~16年12月に腹腔内手術を受けた18歳以上の患者のデータを抽出し、手術時スタチン使用群(手術当日分を含む2回の処方箋発行により定義)と非使用群を比較した。

 なお、術前の閉塞性イベントまたは炎症性腸疾患の既往患者は除外し、データ分析は2012年9月~20年11月まで行った。

 主要評価項目は、術後に発生した小腸閉塞または癒着剝離術を要するARCとした。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて共変量を調整し、HINの症例とOptumの症例で別々に検討した。

ARCと小腸閉塞を抑制

 THIとOptumの解析対象は、それぞれ14万8,601例(手術時平均年齢49.6±17.7歳、女性70.1%)と118万8,217例(同48.2±16.4歳、72.6%)。手術時のスタチン使用は、11.7%と10.8%。追跡期間中央値は1,412日と1,227日で、術後ARCは2,060例(1.4%)と5万4,136例(4.6%)で発生した。

 年齢、性、高血圧や脂質異常症などの微小血管疾患関連因子、手術部位、がんの既往を調整後、手術時のスタチン使用はARCリスクの低下に関連していた〔THIN:調整後ハザード比(aHR)0.81、95%CI 0.73~0.96、Optum:同0.92、0.90~0.95〕。また、小腸閉塞リスクの低下との関連も認められた(THIN:同0.80、0.70~0.92、Optum:同0.88、0.85~0.91)。

 非手術時のスタチン使用歴、フィブラートの使用、アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の使用は、術後ARCに関連していなかった。また、手術前のスタチン使用はARCに関連していなかった。

癒着形成予防で安価かつ安全性に優れた一手

 以上の結果から、Scott氏らは「スタチンの使用が、腹腔内手術後のARCおよび小腸閉塞の発生率低下に有意に関連することが示唆された。これらの結果を検証するために、今後、前向きランダム化臨床試験が必要である」と結論している。

 過去20年間で癒着形成の病態への理解は進んだものの、予防の選択肢はいまだ限られている。同氏は「腹腔鏡検査やバリア剤の使用では効果に限界があり、ARC発生率は低下していない。スタチンは安価で安全性に優れているため、有効性が小さくても、費用効果は高い可能性がある」とコメントしている。

坂田真子