これまであまり検討されていなかった脊髄損傷後の上肢運動機能の変化が明らかになった。東京大学大学院総合文化研究科教授の中澤公孝氏らは、脊髄完全損傷者の上肢における筋力調節(力調節)能力を調査した結果、他疾患による車椅子使用者や健常者と比べ特異的に高いことを見いだした。研究の詳細はNeurorehabil Neural Repair2021年1月29日オンライン版)に掲載されている。

運動感覚統合や四肢の姿勢感覚を担う上頭頂小葉の容積が肥大化

 これまで脊髄損傷者を対象とした研究では、歩行能力の再獲得や麻痺肢の回復といった、損傷部位以下の身体(下肢など)に関するものが大半であった。そこで中澤氏らは、損傷部位より上位の残存機能、特に上肢運動機能の変化を明らかにする目的で検討を行った。

 検討対象は、スポーツ経験のある脊髄損傷者8人(完全損傷7人、不全損傷1人、損傷部位は胸髄以下)、健常者10人で、力調節課題実施中の脳活動を機能的MRI(fMRI)で測定した。なお力調節課題は、ある一定の目標ラインと、握力センサーの出力の2本の線が表示されているモニターを見ながら握力センサーを握り、目標ラインに対し握力をなるべく正確に合わせる形式で実施した。

 また、脳容積をT1強調画像、活動領域(第一次運動野や上頭頂小葉など)の結合性を安静時fMRIにより測定した。

 その結果、脊髄損傷者の力調節能力は健常者より高く()、課題実施時における脳の一次運動野の活動量(少ないほど神経伝導が高率化している)は健常者より少ないことが分かった。

図. 脊髄損傷者と健常者(検討対象のうち各1人)の力調節能力

力調節波形.JPG

※波形の乱れが少ないほど力調節能力が高い

(東京大学プレスリリース)

 こうした現象は、プロの演奏家やスポーツ選手のような熟練者に見られる神経系の発達を示す特徴の1つであるという。

 また健常者に比べ脊髄損傷者では、視覚野に対する依存度の低下が見られ、安静時fMRIで評価した運動野-上頭頂小葉間の機能的結合性が高く、上頭頂小葉の容積が肥大していることも明らかになった。

残存機能を最大限引き出せれば、健常者以上の技術や成果も

 今回の研究結果について、中澤氏は「脊髄損傷者は、特異的に高い上肢運動機能を発揮しやすい性質を有している点が判明した」と説明。加えて、「残存した上肢機能の潜在能力を最大限に引き出せれば、スポーツや社会生活において、健常者がなしえない技術やパフォーマンスを生み出せる可能性も示された」と述べている。

 さらに同氏は「今後は、障害者でしか発揮できない能力があることを神経学的な根拠に基づき明らかにし、次世代型共生社会の創生に貢献していきたい」と展望している。

(陶山慎晃)