慶應義塾大学臨床研究推進センター生体試料研究支援部門教授の西原広史氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指すために必要な、唾液を用いたプール方式のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査のコンセプトを発表した。Cycle Threshold(Ct)を現在医学的行政検査で用いられている値より小さい35とすることで、他者への感染性を判断できる「社会的PCR検査」の考え方を提案するという。概要は、Keio J Med(2021年3月19日オンライン版)に掲載された。

コーヒーカップ1杯の唾液を浴びないと感染しない

 Ct値は、少ない量のウイルス核酸を検出可能な閾値に達するまで、PCRで何回増幅を行ったかを示すもので、一般的に数値が小さいほど検体のウイルス量が多く、大きいほどウイルス量は少ない。わが国の行政検査におけるPCR検査では、検査系の限界値であるCt=40未満をSARS-CoV-2の陽性基準としている。しかし、Ctの至適基準については、国や研究者ごとにさまざまな見解が存在している。

 こうした中、西原氏はこれまで慶應義塾大学病院予防医療センターの人間ドック受診者に対するPCR検査を5,000件以上実施している。そのデータや既報に基づいて検査閾値の適正化を行い、社会経済活動と感染拡大防止を両立させるための検査コンセプトを作成。Ct=35とした場合、一般的に感染を成立させうるウイルス量は100万粒子で、コーヒーカップ1杯程度(125mL)の唾液を浴びないと感染しない試算になるという。日常生活においてこれだけの唾液を一度に浴びることは非現実的であるため、他者への感染性は相当低いとし、検査閾値として妥当とするコンセプトを打ち出した(図1)。

図1. 社会的検査閾値(Social cutoff)に基づく唾液プール法検査

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インターネットや薬局でも検査可能に

 このコンセプトに基づき、西原氏らは2020年度日本医療研究開発機構(AMED)ウイルス等感染症対策技術開発事業「COVID-19に対する唾液を用いた社会的検査体制を構築する研究」(図2)において、経済活動とSARS-CoV-2の感染抑制の両立を図るために、個人を対象としたSARS-CoV-2の他者への感染性の有無を判定することが目的の「社会的PCR検査」の考え方を提唱。

図2. SARS-CoV-2に対する唾液を用いた社会的検査体制を構築する研究の流れ

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(図1、2とも慶應義塾大学プレスリリース)

 この開発事業を通して、社会的PCR検査のコンセプトにのっとった検査方式「SocRtes」(ソクラテス、SOCial pcR TESt)を考案した。SocRtesでは、希望する個人がインターネットで検査を申し込み、届いたキットを使って採集した唾液を発送すると、LSIメディエンス社が10検体プール方式でPCR検査を実施、2~3日程度で検査結果がインターネット上で閲覧できるという。その他、日本調剤社の「健康チェックステーション」併設薬局4店舗において、薬局スタッフが対面で問診や検査のフォローを行うサービスも、4月12日に開始する予定となっている。  

 これにより、SARS-CoV-2に対する大量のPCR検査が安価に実施でき、陽性・陰性の結果だけでなく、Ct値から推測したウイルス量を勘案して社会的活動の目安を示すことで、受検者の隔離や行動自粛の必要性を分かりやすく説明することが可能になり、経済活動の活性化と感染抑制の両立が期待されるという。

編集部