愛知医科大学大学院臨床感染症学教授の三鴨廣繁氏は、ギリアド・サイエンシズが4月1日に開催したオンラインメディアセミナーで「新型コロナ治療の最前線に立つ医師が伝える『医療現場の現状と感染収束へ向けた道筋』」をテーマに講演。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に当たる医師の立場から、日本国内におけるCOVID-19の薬物治療の現状と課題について概説。その中で、抗寄生虫薬のイベルメクチンに対し大きな期待を示すとともに、遅々として承認が進まない国内におけるCOVID-19治療薬の開発の現状と背景についても述べた。

中等症・重症患者にイベルメクチンを併用

 三鴨氏はまず、同大学病院における現時点でのCOVID-19患者に対する治療薬を使用する際の基本的な考え方を示した。それによると、軽症例にはイベルメクチン単剤か膵炎治療薬のカモスタットを併用、中等症(重症に近い)例には抗ウイルス薬のファビピラビルまたはレムデシビル単剤か、これらにイベルメクチンを併用、重症例にはレムデシビルとイベルメクチンを併用するという形で治療を進めているとした。
 
 中でも、イベルメクチンは「世界的に有効性が期待されている」と評価した。同薬については、世界保健機関(WHO)が今年(2021年)3月31日に「臨床試験での使用のみを推奨する」との見解を発表したばかり。理由として、COVID-19患者約2,700例が対象の臨床試験16件を検証した結果、同薬の臨床的有用性の科学的根拠が極めて不確実なことを挙げている(関連記事「イベルメクチン、コロナ軽症例で効果示せず」)。
 
 これに対し、三鴨氏は「WHOの見解は、科学的データに基づくものであり間違いではない。ただし、われわれ臨床医がCOVID-19患者にイベルメクチンを使用する理由として、有害事象が少なく、数多くの患者に使用される中で安全性が高いことが分かっているから」と説明した。一方で、中等症例や重症例に対するイベルメクチンは「単剤で使える薬剤ではなく、併用薬としての位置付けになる」との考えを提示。「イベルメクチンの実力を引き出せるような臨床試験を立案できていないのが現実で、ここにCOVID-19治療薬の開発の難しさがある」とも付け加えた。

 その上で、臨床試験で明らかな有効性が示されていないため、「治療に用いるのを控える医師もいる」とも指摘。「COVID-19には確立した治療法がない。創意工夫をしながら使っている」との認識を示した。

レムデシビル投与は重症化する前が最適のタイミング

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の発生から1年以上経過し、日本で使われている治療薬は10種類近くあるが、国内で承認を取得しているのはレムデシビルとデキサメタゾンの2種類にとどまっている。

 COVID-19の特徴として、重症化リスクが高い患者は急速に進行し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至ると半数以上で救命が困難になるとされる。そのため三鴨氏は、レムデシビルの有効性を最大限発揮させる使い方として「投与のタイミングは重症化する前が最適」との見方を示した(関連記事「レムデシビルがコロナ中等症にも投与可に」)。
 
 デキサメタゾンについては、米国立衛生研究所(NIH)と米国感染症学会(IDSA)が、酸素吸入を必要とする入院患者への投与を推奨している。体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた治療が必要になると救命率は約6割になることから、同氏は「抗ウイルス薬と抗炎症薬の併用によって病態進行を抑制することが、SARS-CoV-2と闘う上で非常に重要」と強調した(関連記事「コロナ治療にデキサメタゾンを追加、厚労省」)。

治療薬の承認が進まない現状に「ジレンマを抱えている」

 さらに、三鴨氏は「われわれ臨床医はCOVID-19の治療についてジレンマを抱えている」と日々の治療に奮闘する医師としての胸中を吐露。

 その理由の1つとして、国立国際医療研究センターが全国21施設の参加を得て行った、肺炎がない軽症のCOVID-19患者90例を対象に、抗炎症薬で吸入ステロイド薬のシクレソニドの肺炎の増悪抑制効果などを検討した第Ⅱ相非盲検ランダム化比較試験(RCT)で有効性が示されなかったことを挙げた。「無症状・軽症のCOVID-19患者に対する投与は推奨できない」との結論に至った試験結果について、「COVID-19の治療薬として長期間使用してきたのでジレンマがある」と感想を述べた。

 また、国内で承認が期待されているファビピラビルについても言及。同薬については、富士フイルム富山化学が非重篤で肺炎を合併したCOVID-19患者156例を対象に行った第Ⅲ相試験で有意差をもって有効性が示された(関連記事「アビガン、国内Ⅲ相試験で有意差示す」)。だが、厚生労働省の専門部会が効能・効果追加の可否について審議した結果、「有効性を明確に判断することは困難」との理由で承認に至らず、継続審議となっている。その理由について三鴨氏は「単盲検のプラセボ対照RCT」だったことを挙げた上で、現在進行中の二重盲検試験の結果に「期待したい」と述べた。

 同氏は、これらの事例からCOVID-19治療薬の開発の困難さについて「レムデシビルが承認された理由は同薬がRNAポリメラーゼ阻害薬であり、SARS-CoV-2に直接作用するため単剤での治療や臨床試験が行えるという特徴がある」との見解を提示。「現在、適応外で使用されているその他の薬剤は、単剤での効果が検証しにくいことが開発や承認の大きなハードルになっている」と課題を挙げた。

抗体カクテル療法「日本も世界に追いつく必要がある」

 そうした中、最近、重症化リスクの高いCOVID-19患者に対する新たな治療法として期待されているのがSARS-CoV-2の中和抗体(モノクローナル抗体)を2種類併用する抗体カクテル療法だ(関連記事「抗体カクテル療法で入院・死亡リスク7割減」)。同療法は昨年10月にトランプ米大統領(当時)がSARS-CoV-2に感染して入院した際に受けたことで話題となった。三鴨氏は「抗体カクテル療法については、医師によって考え方が異なるだろう。私は重症度が高いCOVID-19患者ほど、基本的には抗体医薬を併用すべきであり、より良い治療法と考える」との見方を示した。

 「トランプ前大統領は抗体カクテル療法と抗ウイルス薬を併用したと聞いている。そのような使い方が今後主流になっていく可能性がある。日本国内では製薬企業1社のみが臨床試験を進行中と聞いているが、未承認である。しかし、世界に追いつかなくてはいけないと考えている」と訴えた。

(小沼紀子)