【パリ時事】フランスの国民議会(下院)が、薬物投与による「積極的安楽死」の容認を含む議員立法案を通せないまま9日の審議期限を迎えた。フランスでは近年「死ぬ権利」をめぐる議論が活発化しているが、賛否両論が百出する中で問題を動かす難しさを示した。
 ◇「消極的」は容認
 フランスの現行法では積極的安楽死は禁止されている。一方、耐え難い苦痛を抱え、回復の見込みがなく余命が短い場合にのみ、患者の希望に基づき、鎮痛剤で苦痛を取り除きつつ延命措置を停止する「消極的安楽死」は容認される。
 しかし、患者が意思表示できないときはどうするのか。2019年7月に死去した元看護師バンサン・ランベールさん=当時(42)=の場合、約10年にわたり植物状態となっていた。延命措置をめぐり意見が対立した親族が、5年以上に及ぶ法廷闘争を展開した。
 昨年夏には、血管の壁が徐々に失われる難病と30年以上闘ってきた男性がマクロン大統領に積極的安楽死の容認を求め、議論を呼んだ。医療的には「余命が短い」とは判断されていない。しかし「耐え難い極度の痛み」があり、尊厳をもって死を迎える権利を認めるよう訴えた。
 ◇3千の修正案
 今回の議員立法案は「終末期での自由な選択を保証し、緩和ケアへの普遍的なアクセスを確保する」と強調していた。最後の審議となった8日も、合計3000項目を超える修正案が提出され、足踏みのまま、9日未明に時間切れとなった。
 AFP通信によると、ベラン保健相は8日、議場で「落ち着いた議論が必要だ」と述べ、新型コロナウイルスへの対応に追われる現時点では早急な決定を避けるべきだと主張。「現行法に関する(国民の)理解が非常に浅い」と指摘し、現行法の枠組みでの制度の整備が先決だと訴えた。
 欧州連合(EU)加盟国では、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクが積極的安楽死を合法化。EU域外ではスイスで、医師が用意した致死薬を患者自身が服用する「自殺ほう助」が容認されている。
 ただ、抵抗も強い。親族の意見も多様だ。死後、現場の医師が訴えられる恐れもある。意思確認を厳格化し過ぎれば、制度が機能しなくなる。
 ポルトガル議会は今年1月、積極的安楽死容認法案を可決したが、3月に憲法裁判所が差し止めを命令。スペイン議会も3月に同様の法案を可決したが、反発する極右ボックス(VOX)が憲法裁に提訴して抵抗する姿勢を表明している。 (C)時事通信社