細胞性医薬品の開発などを手がけるバイオミメティクスシンパシーズは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞侵入に関わるヒトの膜細胞受容体(ACE2受容体)と蛋白質分解酵素(TMPRSS2)双方の発現制御に、転写因子FOXO1が関与していることを見いだし、FOXO1の活性を抑制する3つの薬剤候補物質を同定した。薬剤候補の一部についてライセンス契約を締結したロート製薬との共同記者発表会(4月14日、ウェブ併催)で発表した。

27873_pho1.jpg左からロート製薬再生医療研究企画部部長の本間陽一氏、バイオミメティクスシンパシーズ代表取締役社長の漆畑直樹氏、同社主任研究員の大西啓介氏(バイオミメティクスシンパシーズ提供)

薬剤候補物質はキノロン系化合物X、インスリン、HGF

 SARS-CoV-2の細胞への侵入・感染はACE2受容体との結合、TMPRSS2による切断を介して生じるため、これらの発現を阻害すれば感染抑制につながる可能性がある。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に間葉系幹細胞を用いる複数の試験が世界で行われているが、間葉系幹細胞がCOVID-19に対し有効性を発揮するメカニズムは明らかでなかった。

 そこでバイオミメティクスシンパシーズが両者の関係を解析したところ、間葉系幹細胞と培養上清による転写因子FOXO1の活性抑制を介し、ACE2受容体およびTMPRSS2の発現も抑制されることが分かったという。さらに、FOXO1の活性を抑制する薬物候補物質を探索した結果、キノロン系化合物X、インスリン、肝細胞増殖因子(HGF)の3つを同定した。

 同社主任研究員の大西啓介氏は「in vitoroでは、これら3つの物質によってACE2およびTMPRSS2遺伝子の発現抑制が示され(図1)、キノロン系化合物Xについてはマウスを用いた動物実験でも同様の傾向が見られた」と報告した。

図1. キノロン系化合物X投与後のACE2およびTMPRSS2遺伝子発現量の変化

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 なお、キノロン系化合物Xは特許査定も済んでおり、医薬品の共同開発を目指しロート製薬とライセンス契約を締結(他の2つの薬剤候補物質も特許出願中)。ロート製薬再生医療研究企画部部長の本間陽一氏は「今後、SARS-CoV-2に対して有効性の高い剤形などについて検討を進める」と述べた。

新しい研究開発組織「RB」を発足

 バイオミメティクスシンパシーズ代表取締役社長の漆畑直樹氏は、今回の知見について「ACE2とTMPRSS2双方の遺伝子発現を一度に抑制する点に特徴がある」と説明した(図2)。

図2. 今回同定した薬剤候補物質と他のCOVID-19治療薬の比較

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(図1、2とも記者発表会資料)

 また、今回の発表内容はあくまでもこれらの遺伝子発現の抑制や、ウイルス由来蛋白質の取り込み抑制という実験段階の結果であり、「COVID-19に対する有効性を示すものではない」と強調。その上で、現時点で情報を公開した背景として、治療薬開発に携わる企業や施設に貢献する狙いがあった点を説明した。

 さらに、再生医療研究からSARS-CoV-2感染制御のメカニズムおよび、COVID-19治療薬候補物質を同定した手法を他の治療薬開発にも拡大する目的で、ロート製薬と研究開発組織「RB」を発足したことを発表。他企業の参画も募り、オープンイノベーションによってCOVID-19をはじめ、心疾患や肝障害などの新規治療薬実用化に向けた動きを加速させる共創プラットフォームとしての役割を果たすという。

(須藤陽子)