日本神経学会は4月13日、「COVID-19ワクチンに関する日本神経学会の見解(第1版)」を公表した。脳卒中、認知症などの神経疾患、多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群(GBS)などの免疫介在性の中枢神経疾患および末梢神経疾患、筋疾患に対するCOVID-19ワクチン接種に関する国内外のエキスパートオピニオンをまとめたもの。見解では、これらいずれの疾患でも「ワクチンの接種を推奨する」とする一方、免疫療法などの治療薬や治験薬の投与を受けている場合は「ワクチン接種の時期は主治医と患者でよく相談することが望ましい」との見解を示した。接種の望ましい時期についても明示した。

ワクチンの推奨の有無、副反応の問題について回答

 学会の見解は、8項目の質問に回答する形式で示されている。対象となる疾患は、①神経疾患(脳卒中、認知症、神経難病)②免疫介在性中枢神経疾患〔MS、視神経脊髄炎(NMOSD)、自己免疫性脳炎(AE)〕③免疫介在性末梢神経疾患〔GBS、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)〕④免疫介在性筋疾患。それぞれの疾患について、「COVID-19ワクチンの接種を推奨するか」「ワクチンの副反応は問題になるか」という2つの問いに回答している。

 学会の見解ではあるものの「必ず従わなくてはいけないというものではない」とし、「最終的には患者、患者の家族との協働意思決定を通して、ワクチン接種を受けるかどうかを決めることになる」と明記し、あくまで議論のための情報提供という位置付けとした。

神経疾患患者の多くは高齢者「接種が望まれる」

 まず、神経疾患患者は高齢者に多く「COVID-19重症化のリスクが高いことから、COVID-19ワクチン接種の対象になっている患者は基本的には接種が望まれる」とした。一方で、mRNAワクチン(ファイザー製、モデルナ製)、ウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ製)の臨床試験のいずれも基礎疾患を有する被験者は2~3割。そのため、「基礎疾患ごとの有効性の評価は十分ではなく、今後の検討が必要」との見解を示した。副反応に関しては「海外で高齢者や基礎疾患のある人にも接種が進んでいる中、副反応は一過性のものに限られる」とし、「COVID-19に罹患して重症化するリスクに比べると、ワクチンの副反応のリスクは小さい」とした。

多発性硬化症などでは再発リスクが増えないよう相談を

 次に、免疫介在性中枢神経疾患として挙げたMS、NMOSD、AEについては、無治療または免疫療法を受けている場合においても「接種を推奨する」とした。ただし、「免疫療法を受けている場合は、ワクチンの接種時期は主治医と患者でよく相談することが望ましい」と注意を呼び掛けた。

 ワクチンの望ましい接種時期については、疾患ごとに投与している治療薬の影響を加味しながら明示した。

①MS、NMOSD、AEでステロイドパルス療法を受けている場合は、ステロイドの最終投与から5日後以降

②MSで抗B細胞抗体オファツムマブの治験延長期間で投与を受けている場合や新規に投与を開始する場合は、投与前後4週間を空けて接種する(ただし、オファツムマブ投与間隔が空くことでMSの再発のリスクが増えないよう主治医との相談が不可欠)

③NMOSD、AEで抗B細胞抗体リツキシマブ、NMOSD患者で抗B細胞抗体イネビリズマブの投与を受けている場合は、最終投与から12週以降に接種する④NMOSDで抗サイトカイン療法サトラリズマブを投与している場合は、同薬投与3週後に接種する

 また、MS患者でS1P受容体調節薬のフィンゴリモドやシポニモドを新規に開始する場合は、ワクチン接種後4週以降に始めるのが望ましいとした。いずれの場合も、「疾患の再発のリスクが増えないよう、よく相談することが大切」と付記した。 

 副反応に関しては、MS患者はmRNAワクチン、ウイルスベクターワクチンの接種で健康人に比べてリスクが高い、またはMSが増悪するといったデータはないとしたが、特に2回目のCOVID-19ワクチン接種後に生じた発熱で「一時的にMSの症状が悪化する可能性はある。ただし、ワクチンを打たないことによるCOVID-19への罹患リスクを重視すべきで、NMOSD、 AEでも同様と考えられる」とした。

GBS既往例も「接種して構わない」

 免疫介在性末梢神経疾患患者におけるCOVID-19ワクチンの安全性と有効性に関するデータはないが、「これらの患者は免疫調整療法によって免疫力が低下してCOVID-19の重症化リスクが高くなる可能性がある」と指摘。一方で、「免疫系統に作用して予想できない影響の出る可能性もあり、今後のデータの集積が必要」と課題を示しつつも、「現時点ではCOVID-19ワクチンがCIDPまたはMMNの病態を悪化させることを示す知見はない」とワクチンの接種を推奨した。

 また、これまでmRNAワクチンの臨床試験ではワクチン接種後にGBS発症例は報告されていないとして、「現時点では、GBSのような免疫介在性末梢神経疾患の発症を恐れてCOVID-19ワクチンの接種を避ける必要はない。以前GBSを患ったことがある患者もワクチンを接種して構わない」とした。なお、COVID-19ワクチンの臨床試験の参加者で接種後にベル麻痺(特発性顔面神経麻痺)を生じた例が報告されているという。ただし、米食品医薬品局(FDA)は一般集団に期待される発症率を超えているとは考えておらず、ベル麻痺がCOVID-19ワクチン接種によって引き起こされたとは結論付けていないとした。

 注意すべき副反応としては「アナフィラキシーショック、原疾患の悪化がある」と説明。ただし、「ファイザー製のワクチン接種で、免疫介在性末梢神経疾患患者においてアナフィラキシーショックが増えるという報告はない」としている。

免疫介在性筋疾患患者への接種は「無意味ではない」

 免疫介在性筋疾患患者に対するCOVID-19ワクチンの接種については、「理論的には接種により免疫病態が惹起される可能性は否定できないが、極めて低いと考えられる」と考察。「治療に用いられる免疫調整薬、免疫抑制薬によりワクチンの効果が弱まるかどうかはいまだ不明」としながらも、「ワクチン接種が禁忌でない免疫介在性筋疾患患者はワクチンを接種することができる。接種が無意味というわけではない」として、接種にポジティブな見解を示した。

 副反応に関しては、理論的な考察として「COVID-19の11%で筋痛や高CK血症が報告されており、骨格筋障害自体はまれではないようだ。しかし、これがウイルスの直接感染によるものか、免疫介在性のメカニズムによるものなのかは解明されていない」と説明。さらに「COVID-19にGBSの発症例があることを踏まえると、補体介在性の病態による筋障害の可能性は否定できない。またⅠ型インターフェロン介在性筋炎を発症した症例の報告もあるが、補体介在性あるいはⅠ型インターフェロン介在性筋炎の病態がワクチン接種により再現されるかどうかは不明」と指摘した。

 その上で、「可能性は極めて低いと思われるが、免疫介在性筋疾患患者ではワクチン接種後に慎重に経過を観察する必要がある」とし、「ワクチン接種により惹起される免疫反応に起因する問題以外に、重症筋無力症など神経筋疾患患者では全身倦怠感などの一般的な副反応の影響が大きくなる可能性にも注意しておく必要がある」と呼び掛けた。

(小沼紀子)