東海大学病院循環器内科教授の吉岡公一郎氏、同院放射線治療科客員教授の国枝悦夫氏らの共同研究グループは、難治性致死性心室不整脈(心室頻拍)患者に対して国内初となる体外放射線照射治療(SBRT)を実施し、治療から1年4カ月後の経過を発表した。合併症は認められず、良好な経過が得られているとして、結果の詳細をHeartRhythm Case Rep(2021年2月12日オンライン版)で報告。SBRTが心室頻脈に対する第4の選択肢になるとの展望を示した。

難治例への低侵襲の治療法として期待も

 心室頻拍は、心臓が1分間に120回以上不規則に痙攣し、時に心室細動に移行して突然死の原因となることが知られている。心室頻拍を引き起こす可能性のある代表的な器質的心臓病は、心筋梗塞、拡張型心筋症、肥大型心筋症、催不整脈性右室心筋症、心サルコイドーシスなど。日本国内では年間6万~8万人が心臓突然死で死亡しており、高齢化に伴いさらに増加することが予想されている。

 治療法は、薬物治療、カテーテルアブレーション(RFCA)、植え込み型除細動器(ICD)の三本柱とされる。だが、薬剤の副作用で治療を中断せざるをえない、または解剖学的理由などでRFCAを行うことができない、または複数の治療を併用しても改善が期待できないこともある難治性患者が存在し、アンメット・メディカルニーズが存在している。

 SBRTは、がんの治療に導入されている放射線治療の1つで、胸部や腹部の病巣に対して放射線を6~8方向から1点に高精度で照射する。技術の進歩に伴い、標的組織に隣接する正常臓器への障害を最小限に抑えながら、高線量の放射線を正確に照射することが可能になっている。近年、この技術を他の疾患にも応用する動きが広がっており、2017年には米・ワシントン大学で心室頻拍へのSBRTの応用が開始されている。

 心室性不整脈に対しては、RFCAが有効な治療オプションになるが、この治療では難治または適切でない事例にSBRTが新たな治療選択肢として登場している。SBRTの特徴は、痛みを伴わないため麻酔の必要がなく、また照射時間が極めて短時間(照射時間は4分、治療時間は準備を含めて1時間以内)であるため侵襲性が低い。これまでの放射線治療の適応はほぼ腫瘍に限られていたが、海外では腫瘍以外の疾患の治療にも徐々に応用が進みつつあるという。

患者は合併症なく、不整脈を良好に抑制

 吉岡氏らの共同研究グループは、ワシントン大学でのハンズオントレーニングおよび具体的な治療手順の指導を受けるなど、治療の準備を進め、2019年11月に日本人で第1例となるSBRTによる不整脈治療を実施した。患者は駆出率が低下(27%)した心筋梗塞を来した75歳の女性。53歳時に右冠動脈の狭窄のために経皮的冠動脈インターベンションおよび標準的薬物治療を受けた後、2012年にICDの植え込み手術を受けた。その後、2019年にICD作動による最初のショックを起こし同院に救急車で搬送され、1カ月後に再びICD作動によるショックが生じた。RFCAが適切と判断されたが、本人や家族の希望で選択せず、2カ月間の経過観察中に非持続性心室頻拍が見られた。再度RFCAが推奨されたが、患者や家族の同意が得られなかったため、別の治療法としてSBRTの選択に至った。

 SBRT施行から1年4カ月余が経過したが、患者に合併症は認められず、良好な不整脈抑制効果が得られているという。高時間分解能ホルター心電図を用いた解析では、照射後に心臓の伝導性を反映する心室遅延電位の改善と、迷走神経活動の回復が認められたという。放射線による晩期心臓障害の可能性についても十分に配慮して、継続観察している。

 放射線が不整脈の治療で有効に働くメカニズムについては、現段階では十分に明らかになっていない。ワシントン大学では、RFCAの代わりに放射線を用いて不整脈基質の焼灼を行うことで、心筋の線維化を形成し不整脈発生の原因となる異常な電気回路を物理的に遮断するというコンセプトのもと治療を開始したとされる。SBRTの治療例では、治療早期(治療開始から1カ月以内)に不整脈の抑制効果が高率に認められることから、その作用は必ずしも線維化に起因しないと報告している。心筋線維化の完成には3カ月を要するため、その他の抗不整脈効果によるものと想定されている。

 研究グループは、「SBRTは心室頻拍に対する第4の選択肢として期待される」と展望。X線による放射線治療機器は全国に普及しているため「より詳細なメカニズムが明らかになることで不整脈に苦しむ患者に幅広く提供できる」とし、「重粒子線においては、その物理学的特性からX線よりも心臓周辺臓器への照射線量を抑えることが可能だ。両者の特徴に応じて使い分け、放射線による臓器障害を最小限に抑えながら最大限の効果を得られるよう、データを蓄積していく」としている。

(小沼紀子)