新型コロナウイルスのワクチンについて、菅義偉首相が国内の接種対象者全員分を9月までに確保できるめどが立ったと表明した。秋までにある衆院解散・総選挙や再選の懸かる自民党総裁選をにらみ、コロナ対策の鍵を握るワクチン接種に不安はないとアピールした格好だ。だが、実際に必要量が確保できるのか、自治体の現場で接種が円滑に進むのかなど、不透明な要素は少なくない。
 首相は19日、訪米中にワシントンで行った米ファイザー社トップとの電話会談について、「9月までにわが国の対象者へ確実に供給できるよう追加供給を要請した」と記者団に説明。「『協議を迅速に進めたい』との話があった。9月までの供給にめどが立った」と強調した。
 政府は同社との間で、7200万人分を年内に受け取る契約を締結。英アストラゼネカから時期は未公表だが6000万人分、米モデルナからは9月までに2500万人分の供給を受ける予定で、既に人口を超える1億5700万人分の「確保」に道筋を付けたとしている。
 だが、アストラ製とモデルナ製は厚生労働省がなお審査中。アストラ製は血栓の発症例が報告され、欧州各国は一時、接種を停止した。加藤勝信官房長官は19日の記者会見で、追加供給の意味や「9月めど」にこの2社が含まれるのかを問われ、「具体的な中身は相手方との関係もあり、答えは差し控えたい」と言葉を濁した。
 9月は首相の自民党総裁任期、翌10月には衆院議員任期が満了する。衆院解散の時期について自民党内では、9月5日の東京パラリンピック閉幕後との見方が強まっている。自民党関係者は首相の意図を「ワクチンのめどが立ったところで選挙をしたいんだろう」と推し量り、党幹部は「選挙の追い風になる。完璧だ」と歓迎した。
 ただ、政府の説明通りに確保できるか懐疑的な見方は根強く、現場ではワクチンの打ち手がいないなどの理由で、接種の進み具合は「やはり遅い」(政府関係者)と受け止められている。自民党の下村博文政調会長は党コロナ対策本部の役員会で、「全ての国民が接種できるのは来年春くらいまでかかるかもしれない」と楽観を戒めた。
 首相の説明に、野党は批判のトーンを強めた。立憲民主党の枝野幸男代表は党会合で「全く具体的な説明をできていない」と指摘し、同党中堅は「空手形だ」と反発。共産党の小池晃書記局長は会見で「ワクチンの政治利用とみられても仕方ない」と断じた。 (C)時事通信社