日本医学会連合は4月15日、「COVID-19ワクチンの普及と開発に関する提言」の修正第3版を公開した。感染力が強いとさる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株が広がる中で、感染拡大を抑制する切り札とされるSARS-CoV-2ワクチン接種率は4月20日時点で全人口の2%弱にとどまっている。提言では「医療従事者に対する接種が滞ることで高齢者などへの接種に影響が出ないようにすべき」と要望。また、ワクチンを接種する医療従事者に対し、筋肉注射の手技を熟知する必要があるとして接種時の注意点などを示した他、変異株を早期に察知できるサーベイランス体制構築の必要性などを訴えている(関連記事「新型コロナワクチン普及に提言」)。

糖尿病患者や肥満者は接種推奨、軽症高血圧患者では優先の必要なし

 国内では、SARS-CoV-2ワクチンの接種は①医療従事者など②65歳以上の高齢者③高齢者以外で基礎疾患を有する者④高齢者施設など(障害者施設等を含む)の従事者ーの順で進められる予定だ。高齢者への接種は4月12日に一部の地域で始まっており、速やかな接種が求められている。

 提言では「SARS-CoV-2ワクチンがなければ、ほとんどの人が感染するまで流行は収束しない」として、「自身の感染予防だけでなく、社会での流行を抑制するためにも接種を検討してほしい」と強調。一方で、医療従事者の接種対象者数が当初の予想よりも増えているとの報道があり、さらにSARS-CoV-2ワクチンの供給が限られている中で「『「疑い例を含む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に頻繁に接する機会のある』者という条件は厳しく適用する必要がある」とした。

 優先接種対象の基礎疾患の1である気管支喘息について、提言では「喘息患者はSARS-CoV-2に感染しにくいとの報告はあるが、米国疾病対策センター(CDC)では中等~重症の喘息はリスクになる可能性がある疾患に挙げており、ワクチン接種が推奨される」とした。

 COVID-19重症化の危険因子とされる高血圧については、合併する心疾患、糖尿病、慢性腎臓病など複合的な要因によるものであり、65歳未満では高血圧自体が明確な危険因子であるとは限らないとして、「軽症の場合は必ずしも接種を優先する必要はないが、希望する場合は主治医と相談した上で接種可能」とした。

 インスリン治療を受けている、または血糖コントロールが不十分な糖尿病患者は重症化リスクが高く、BMI30以上の肥満者ではSARS-CoV-2感染後の重症化との関連性が高いとして、いずれも「接種が勧められる」と明記した。

 一方、妊婦については、ワクチン接種による母体や胎児・出生児への安全性が確認されていないため、現時点では優先接種対象者に含まれていない。ただし、日本産科婦人科感染症学会と日本産科婦人科学会は「流行拡大の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない」とし、「感染リスクが高い医療従事者、重症化リスクがある可能性がある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している人は、ワクチン接種を考慮する」ことを提言している。

 これらを踏まえ、今回の提言では、国内外の臨床試験において妊婦などへの安全性が一定の水準で確認された時点で「再検討すべきと考える」との見解を示した。

慢性疾患の小児をケアする施設職員などは接種を要検討

 SARS-CoV-2ワクチンの臨床試験が実施されていない16歳未満の小児についても、安全性が確認されておらず接種の対象に含まれていない。提言では、小児でも慢性疾患患者はCOVID-19の重症化リスクが高いため、このような小児にかかわる小児医療関係者や施設職員などへの接種について「検討が必要」と指摘した。また今後、国内外の臨床試験で小児への安全性が確認された場合は再検討が必要としている。

 過去にSARS-CoV-2に感染した例にも言及し、「獲得する免疫の程度はさまざまあり、どの程度の期間再感染を防げるかは不明。ワクチン接種によりさらに高い免疫が誘導される可能性があり、感染後一定の期間が経過していれば接種する意義はある」との見解を示した。その場合、接種回数は「1回で十分と思われる」とた。

 一方、手術後のワクチン接種、または接種後に手術を予定している患者に対し、どの程度の間隔を空ける必要があるか明確な基準はないのが現状だ。提言では、術後は体への侵襲に伴う免疫応答や異化の亢進などの理由から「ワクチン接種を2週間待つことが一般的」とし、SARS-CoV-2ワクチンについても「待機期間として2週間が妥当ではないか」とした。ワクチン接種後の手術については「ワクチン接種に伴う一過性の副反応の頻度が少なくなる接種後3日目以降であれば、手術は可能ではないか」との考えを示した。

筋肉内に到達するよう針の長さに注意も、長過ぎると骨膜損傷の恐れ

 SARS-CoV-2ワクチンは、インフルエンザワクチンなどと異なり筋肉注射である。筋肉は皮下組織より深い部位にあるため、上腕の筋肉に注射針を直角に深く刺して打つ必要がある。標準的な注射針は針の太さが22~25ゲージ(G)、長さが25mmで、皮膚面に90℃の角度で注射する。日本人では長さ16mmの針でも接種が可能な体格の人も多く、体重70kg以上では32~38mmまたは27Gの針も使用可能だという。

 ワクチンに含まれるメッセンジャーRNA(mRNA)は主に筋肉細胞内で蛋白質に翻訳されるため、「筋肉内に確実に到達するよう針の長さには注意が必要」とした上で「体格によっては筋肉の厚さが薄く、長過ぎる針の場合は骨膜損傷や三角筋下滑液包炎を起こす恐れがある」と注意を促した。上腕外側三角筋中央部には大きな血管が存在しないため、あえて内筒を引いて血液の逆流を確認する必要はないとされており、CDCは「シリンジの吸引は痛みを誘発するため、行うべきではないと注意している」と紹介した。

 接種する腕は、接種部位の疼痛に備えて、「利き手ではない側に接種することが望ましい」とした。皮膚疾患、筋肉萎縮などにより上腕三角筋に接種できない場合は、下腿の外側広筋(大腿部の外側の筋肉)に注射することが勧められるという。

 接種者はマスクの着用とともに、職業感染制御研究会の手引きで手袋の着用が推奨されているとした。手袋の着用に関し、CDCはワクチン接種時に体液・血液に曝露する恐れが低いという理由から「必須ではないとしている」と紹介し、手袋を着用する場合は「被接種者ごとに交換が必要で、着用前と着脱後には手指消毒が必須」とした。

起源国不明のE484K変異有するSARS-CoV-2を関東を中心に検出

 日本国内では大阪府を中心とする関西地域でSARS-CoV-2感染者が急増しており、その要因の1つとされるのが変異株の広まりだ。英国で確認されたN501Y変異株(B.1.1.7系統、VOC202012/01)による影響が大きいとされる。N501Y変異は、英国株の他に南アフリカ変異株(B.1.351系統、VOC202012/02)、ブラジル変異株(B.1.1.28系統、P.1)でも確認されている。東京都、神奈川県、千葉県など首都圏でも今後、N501Y変異株の感染が広がる恐れがあるとして、関係各所は警戒を強めているところだ。

E484K変異、ワクチンの有効性に影響か

 提言では、現在N501Y変異を持つ英国変異株によって「感染力(伝播力)が36%から75%上昇すると推定されている」としつつも、「ファイザー製ワクチンで誘導される抗体による中和作用には若干の減少が見られたが、ワクチンの有効性には大きな影響はない」と説明。一方、南アフリカ変異株、ブラジル変異株で見られるE484K変異は、COVID-19回復期抗体の中和作用から回避する変異であることが報告されているとして「ワクチンの有効性に影響を及ぼすことが懸念されている」と指摘した。

 実際、ファイザー製ワクチンの2回接種後に誘導される抗体の中和活性は、E484K変異を有するSARS-CoV-2では「幾何平均で3~4分の1 に低下することが報告されている」と注意を喚起。484K変異を有する新たなB.1.1.316系統の株(起源国不明)も関東地方を中心に検出されていることから、「ワクチンの有効性に影響を与える変異を持つSARS-CoV-2の今後の感染拡大に注意するとともに、早期に察知できるサーベイランス体制の構築が必要」と訴えた。

(小沼紀子)