東京大学大学院循環器内科学教授の小室一成氏らは4月23日、国内最大規模の健診・レセプトデータベース(JMDC Claims Database)に登録された約200万例分の症例を対象に、心不全や心房細動などの循環器疾患リスクを解析した結果を発表。一般的な高血圧診断基準より低い収縮期血圧(SBP)値、拡張期血圧(DBP)値の症例でも、心不全や心房細動(AF)リスクが上昇する可能性があると報告した。研究の詳細はCirculation2021年4月22日オンライン版)に掲載されている。

SBP 130~139mmHg/DBP 80~89mmHgで心不全リスク1.3倍

 わが国では、高血圧の診断基準値はSBP 140mmHg以上あるいはDBP 90mmHg以上とされている。一方、2017年に米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)は基準値をSBP 130mmHg以上、DBP 80mmHg以上に引き下げ、SBP 130~139mmHg/DBP 80~89mmHgをステージ1高血圧、同140以上/90mmHg以上をステージ2高血圧と定義した。しかし、これら新たな基準値の妥当性については、依然多くの議論が続けられている。

 そこで、小室氏らは新たな基準値における心不全およびAF発症リスクを検討した。

 検討では、2010年1月~18年8月にJMDC Claims Databaseに登録され、降圧薬内服例や循環器疾患既往歴のある例を除外した219万6,437例(平均年齢44±11歳、男性58%)を解析対象とした。

 対象をACC/AHAの血圧ガイドラインに準じ、正常血圧(SBP 120mmHg未満かつDBP 80mmHg未満)群115万5,885例、正常高値(同120~129mmHgかつ80mmHg未満)群33万7,390例、ステージ1高血圧(同130~139mmHg/80~89mmHg)群45万9,820例、ステージ2高血圧(同140mmHg以上/90mmHg以上)群24万3,342例)に分類。経過を観察した(平均観察期間1,112±854日)。

 その結果、観察期間中に全体のうち2万8,056例が心不全、7,774例がAFと診断された。

 各群の心不全、AF発症リスクについて年齢、性、高血圧以外の危険因子を補正しハザード比を算出したところ、心不全およびAF発症リスクは正常血圧群に対しステージ1高血圧群ではそれぞれ1.3倍、1.21倍、ステージ2高血圧群では2.05倍、1.52倍であった()。

図. 心不全およびAF発症リスク

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(プレスリリースを基に編集部作成)

 なお、心不全、心筋梗塞、狭心症、脳卒中の発症リスクについては、正常血圧群に対しステージ2高血圧群、ステージ1高血圧群、正常高値血圧群の順に高かった。

 加えて、人口寄与危険割合の指標を用いて、血圧上昇が疾患発症に及ぼす寄与度を推定した。その結果、ステージ1高血圧群の血圧を正常化させると心不全およびAFのリスクがそれぞれ23%、17%低下し、ステージ2高血圧群では51%、34%低下する可能性が示された。

ステージ1高血圧に対する治療の妥当性は検討課題

 小室氏らは「後ろ向きの観察研究である点、レセプトの病名に基づいて解析している点、データベースに含まれる主な対象が中規模以上の企業勤務者とその家族であるため、選択バイアスが存在しうる点などは、今回の研究の限界として考慮すべきである」と説明。しかし、「広く一般に用いられている従来の高血圧診断基準(140/90mmHg以上)よりも低い段階から心不全やAFの発症リスクが上昇する可能性が示唆されたことは、日本を含む先進国で増え続ける循環器疾患を予防する足がかりになるだろう」と述べている。

 さらに、「ステージ2高血圧だけでなくステージ1高血圧も心不全やAFのリスクを増加させる可能性が示された。ステージ1高血圧の治療が心不全やAFの予防に寄与するかどうかは今後の研究課題であり、医療経済や費用効果の観点からも検討する必要がある」と指摘している。

(陶山慎晃)