【ワシントン時事】新型コロナウイルスワクチンを途上国に広げるため、バイデン米政権が特許権の一時放棄を支持する姿勢に転じたことが波紋を広げている。欧州連合(EU)やフランスが協議に前向きの立場を示す一方、製薬会社が本拠を構えるドイツは反対を表明し、真っ二つに割れた。感染爆発が続くインドがワクチンの確保を急ぐ中、特許をめぐる国際交渉は時間との勝負になる。
 EUのフォンデアライエン欧州委員長は特許の放棄について「協議する用意がある」と語り、フランスのマクロン大統領も「強く支持する」と賛意を示した。これに対してドイツは、技術流出を懸念する製薬業界の主張に沿い、「ワクチン生産の障害となっているのは生産能力と高い品質基準であり、特許ではない」(政府報道官)と改めて反対した。
 特許の放棄は、世界貿易機関(WTO)でインドと南アフリカの提案をたたき台に議論が進められてきたが、製薬会社を抱える米欧など主に先進国に慎重姿勢が目立った。しかし、米国が5、6両日のWTO一般理事会で一転、支持を表明すると、EUも軟化。一方、同じく慎重派だった日本やスイス、ブラジルは明確な立場を示さなかったという。
 WTOは164加盟国・地域の全会一致が原則で、「遅くとも11月末の閣僚会合での合意」(関係者)を目指す。インドと南アはワクチンや開発情報、検査薬、医療物資など幅広い特許権の放棄を求めたが、米国は「ワクチンのみ」を主張。条件闘争が激化するのは必至で、米通商専門家は「当初案は大幅に縮小される」と予想する。
 バイデン政権には、途上国支援を通じて指導力を発揮し、「ワクチン外交」を展開する中国やロシアをけん制する狙いもありそうだ。国内接種を優先した米国は3月中旬までワクチンの輸出実績ゼロ。一方、中国は90カ国以上、ロシアは70カ国以上に供給した。
 WTOは過去の交渉で、抗エイズウイルス薬の特許をめぐる先進国と途上国の対立が長引き、批判を受けた。また、貿易紛争処理の最終審に当たる上級委員会はトランプ前米政権の反対で委員が選出されず、機能不全に陥っている。国際協調を重視するバイデン政権はWTOを結束に導けるのか、手腕が試される。 (C)時事通信社