国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループは、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に資することを目的に約6万8,000人を長期間追跡した多目的コホート研究JPHC Studyのデータを用い、降圧薬の長期使用とがん罹患リスクとの関連を調べた結果をCancer SciCancer Sci 2021; 112: 1997-2005)に発表。降圧薬の長期使用と全がん、大腸がん、腎がん罹患リスクとの関連が見られたと報告した。

降圧薬とがん罹患リスクの先行研究結果は一貫せず

 降圧薬とがんの関連については、一部の利尿薬が胃内で発がん作用を引き起こす、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が腫瘍の血管新生を促進するとの報告がある一方で、カルシウム拮抗薬が抗がん薬の効果を増強する、レニン・アンジオテンシン系阻害薬はがん細胞のアポトーシスを促進するなど、発がん抑制を示唆した報告もある。しかし、降圧薬の使用と複数のがん罹患リスクの関連を検討した前向き研究はこれまでなかった。そこで研究グループは、降圧薬の長期内服とがん罹患リスクとの関連をがんの部位別に検討した。

 対象は、1990年と1993年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)に在住で、研究開始時、5年後調査、10年後調査のアンケート全てに回答し、10年後の調査時点でがん既往がなく追跡可能であった男女約6万8,000人。3回のアンケート時点における降圧薬服用の有無別に、全て内服なし(内服なし群)、10年後調査のみ内服あり(5年未満内服群)、5年後調査と10年後調査のみ内服あり(5~10年内服群)、全て内服あり(10年以上内服群)の4群に分け、調査地域からの転居、追跡不能、死亡、っがんの診断のいずれかが発生、または2012年末まで追跡。内服なし群を参照とし、5年未満内服群、5~10年内服群、10年以上内服群のがん(全部位、肺、胃、大腸、肝、腎、膵、前立腺、乳腺)罹患リスクを調査した。

5~10年内服群で腎臓がんの罹患リスク3.76倍

 年齢、性、地域、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病歴、塩分摂取量(胃がん)、慢性肝炎や肝硬変の既往(肝がん)、出産歴(乳がん)を調整した多変量解析の結果、内服なし群に対し、10年以上内服群では、全部位(1.08倍)、大腸(1.18倍)、腎(2.14倍)のがん罹患リスク、5~10年内服群では腎(3.76倍)のがん罹患リスクの有意な上昇と関連していた()。

図 降圧薬内服とがん罹患リスクとの関連

28031_fig01.jpg

(国立がん研究センタープレスリリースより引用)

 今回の結果について、研究グループは「腎がんは、過去の研究でも降圧薬内服が罹患リスクの上昇と関連しているという報告があり(Aging 2020; 12: 1545-1562)、今回の結果と一致していた。また、高血圧患者は慢性腎臓病のリスクが高いため通院時に超音波検査を受ける機会が多く、その際に腎がんが偶然発見された可能性も考えられる」と指摘した。一方、大腸がんに関しては、「特にACE阻害薬やARBなどの降圧薬はリスクを低下させるという報告があるが(Pathobiology 2011; 78: 285-290Cancer Biol Ther 2013; 14: 720-727)、今回の結果とは一致しなかった。その理由として、JPHC Studyが開始された1990年にはARBが日本では使用されていなかったこと、調査時期や内服していた降圧薬の種類が先行研究と異なる点が影響している可能性がある」と述べている。

 さらに今回の研究はアンケートに基づくため、降圧薬の種類を聞いていない、服用期間が正確でない可能性がある、などの限界点が挙げられる。この点について、研究グループは「実臨床では服用する降圧薬が数種類に及ぶ場合や、途中で変更される場合もあるため、種類を問わず降圧薬内服とがん罹患リスクとの関連を明らかにした点は1つのエビデンスとして有用である」との見方を示している。

編集部