軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって生じる心機能障害は回復後も継続する可能性は低いようだ。英・Barts Health NHS Trust/University College LondonのGeorge Joy氏、Jessica Artico氏らは、同国の医療従事者を対象に軽症のCOVID-19後に生じる心血管系の変化について検討した結果を、J Am Coll Cardiol Img2021年5月8日オンライン版)に報告。「軽症患者では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が心臓の構造や機能に及ぼす影響が感染6カ月後まで継続する可能性は低い」と述べている。

感染6カ月後に心臓の構造、機能を検討

 重症COVID-19患者では血栓形成や心臓での炎症および傷害が生じると報告されていることから、軽症患者でも起こる可能性が懸念されていた。しかし、これまで軽症COVID-19患者回復後の心臓への影響を調べた研究はほとんどなかった。

 COVIDsortiumは軽症のSARS-CoV-2感染に対する免疫と発症機序を検討する研究で、英国の医療従事者731人を登録した。COVID-19第一波時の16週間に血液、唾液、鼻腔拭い液の検体を毎週1回採取し、症状の確認、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査、抗原検査を行った。その結果、157人(21.5%)がSARS-CoV-2陽性と判定された。

 今回は、COVIDsortium登録者からSARS-CoV-2陽性者と年齢、性、人種をマッチさせた陰性者の対象を選出。感染6カ月後に心臓MRIを用いて心臓の構造、機能、組織特性を調べ、血液バイオマーカーについても検討した。

 主要評価項目は左室駆出率(LVEF)、左室拡張末期容積(LVEDV)係数、遅延ガドリニウム増強(LGE)、中隔T1、中隔T2とした。副次評価項目は左室容積係数、左室質量、左房面積係数、中隔細胞外容積分画(ECV)、global longitudinal shortening、大動脈伸展性とした。

 解析対象はSARS-CoV-2陽性群74例と陰性群75例の計149例〔平均年齢37歳(範囲18~63歳)、男性42%、女性58%〕。陽性群は全例、無症状または軽症(発熱、乾性咳、無嗅覚、味覚消失、味覚異常など)で、入院(2日間)は1例のみだった。

 6カ月後の心臓MRI検査時に16例(11%)がなんらかの症状を申告した。内訳は、喉の痛み、倦怠感、鼻漏、息切れ、湿咳、悪寒、下痢、無嗅覚、味覚消失。有症者の割合は、陽性群と陰性群で差はなかった〔6 例(8%)vs. 10例(13%)、P=0.47〕。

陽性群と陰性群で有意差なし

 心臓MRI検査の結果、主要評価項目であるLVEF〔中央値:陽性群67.5%、四分位範囲(IQR)64.4~70.2% vs. 陰性群66.8%、62.8~70.1%、P=0.28〕、LVEDV係数(同78.1mL/m2 、69.7~90.3mL/m2 vs. 80.0mL/m2 、71.3~94.9mL/m2、P=0.37)、LGE(平均0.27±0.78% vs. 0.32±0.93%、P=0.72)、中隔T1(同1,020±34ミリ秒vs. 1,016±28ミリ秒、P=0.42)、中隔T2(同48.8±2.5ミリ秒vs. 48.6±1.9ミリ秒、P=0.63)のいずれも両群に有意差はなかった。副次評価項目および血液バイオマーカー〔トロポニン、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT‐proBNP)〕についても両群で有意差は認められなかった。

 また、心臓MRIでは大動脈起始部の拡張が2例、左心房の拡張が6例、LVEFの低下が2例、T 1上昇が6例、T2上昇が9例、非右室挿入部位のLGEが13例、バイオマーカーではトロポニン値の上昇が4例に認められたが、いずれも異常は軽度だった。これらの異常の割合は、陽性群と陰性群で有意差はなかった。

 以上から、Joy氏らは「軽症COVID-19患者において、6カ月後の左室心筋の大きさ、量、駆出率、心臓の炎症と瘢痕の量、大動脈の弾力性にSARS-CoV-2陰性群との差は見られなかった」と結論。「軽症例ではSARS-CoV-2感染が心臓が構造や機能に及ぼす影響が長期に継続する可能性は低く、軽症例に対して心臓スクリーニングを行うベネフィットは小さい。今後は研究の焦点を重症例、高リスク例、有症状例に絞るべきだ」と付言している。

(大江 円)