筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)は原因・病態が未解明で、有効な治療法が確立されていない。東京脳神経センター(理事長=松井孝嘉氏)と松井病院(香川県)の研究グループは、ME/CFS患者に対する頸部への局所物理療法の有効性を検討。治療効果に影響する因子の解析から、ME/CFSの病態には、頸部筋群の中を通っている自律神経(副交感神経)が深く関わっていると発表した(BMC Musculoskelet Disord 2021; 22: 419)。今回の知見に基づいて、汎用性の高い治療法を開発することが可能だと展望している。

ME/CFS患者の多くが頸部疾患を合併

 CFSは1988年に米国で提唱された疾患概念。各種器質的疾患を鑑別した上で、全身の強い倦怠感、慢性的な疲労感が6カ月以上持続し、日常生活に著しい支障を来す場合に診断される(関連記事「ME/CFSの診断基準見直しと新たな病名の使用を勧告」)。治療にはビタミン製剤、漢方薬、向精神薬などが試みられているが、有効性が確立されたものはない。英国で提唱されたMEと同じ病態と見なされ、近年はME/CFSと併記することが一般的になっている。

 研究グループは、ME/CFSの病態解明と治療法の確立を目指し臨床研究を続ける中で、ME/CFS患者の多くが変形性頸椎症、椎間板ヘルニア、頸椎捻挫(むち打ち症)などの頸部疾患や頸部の凝りを合併していることに注目。2012年に「頸性神経筋症候群(cervical neuro-muscular syndrome)」という疾患概念を提唱した(Neurol Med Chir 2012; 52: 75-80)。難治性むち打ち症については、頸部への局所的物理療法(低周波電気刺激療法+遠赤外線照射)により、全身の不定症状が80%以上回復することを報告している(関連記事「難治性むち打ち症の原因療法確立へ突破口」)。

55%が頸部局所療法で改善、改善群では頭痛などの合併症改善率も高い

 今回は同療法のME/CFSへの有効性を検証し、治療効果に影響する因子の解析を行った。

 対象は2006年5月~17年6月に東京脳神経センターまたは松井病院を受診し、Fukuda診断基準に基づいてME/CFSと診断された患者のうち、通常の外来治療では治癒せず入院となった1,226例(男性448例、女性778例、平均年齢46.4歳、平均入院日数62.5日)。全例に対し、頸部に対する低周波電気刺激療法と遠赤外線照射を1日2~3回行った。退院時にFukuda基準で評価し、改善群680例(55.5%)と非改善群546例(45.5%)に分類した。なお研究グループによると、55.5%という改善率は、これまでに報告されているME/CFSの治療成績の中で最も高いレベルだという。

 両群を比較すると、性、年齢、入院日数には差がなかった。改善群では非改善群に比べ、ME/CFSの代表的な合併症として知られる頭痛、頸部の凝り、めまい、動悸、まぶしさ、吐気、不明熱、うつ状態の改善率が有意に高かった(いずれもP<0.001)。ロジスティック回帰解析を行って、非改善群に対する改善群のこれら合併症改善のオッズ比(95%CI)を算出したところ、以下のような結果が示された(いずれもP<0.001)。

頭痛:3.41(2.63~4.43) 頸部の凝り:3.78(2.92~4.87) めまい:6.27(3.33~11.78) 動悸:3.26(2.48~4.28) まぶしさ:2.76(2.13~3.57) 吐気:4.19(2.92~6.02) 不明熱:10.66(7.86~14.45) うつ状態:13.70(8.11~23.15)

改善群では退院時に瞳孔が短縮

 これら合併症の中でまぶしさに注目。入院時と退院時の瞳孔の直径を計測したところ、改善群では非改善群に比べ、退院時に瞳孔の直径が有意に小さかった()。

図. 入院時・退院時における瞳孔の直径の変化

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(東京脳神経センタープレスリリース)

 瞳孔の直径は副交感神経によって調整されているため、研究グループは「頸部筋群の間を通って全身に分布する副交感神経がME/CFSの発症に関与している可能性が示された」と考察している。

 今回の研究成果から、頸部筋群を弛緩、あるいは副交感神経を正常化することがME/CFSの有効な治療になる可能性が示された。しかし、今回の研究で要した2カ月に及ぶ入院治療は患者への負担という意味でも、医療経済的観点からも汎用性が低い。研究グループは外来治療でも可能な筋弛緩薬のよる局所療法(湿布、軟膏など)、あるいは副交感神経を標的とするコリン作動薬やムスカリン受容体刺激薬などがME/CFSの治療候補になると展望している。臨床研究の進展が待たれる。

平田直樹