新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の小児患者において、毒素性症候群や川崎病を疑わせるような多臓器に強い炎症を起こす小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)の発症例が報告されている。日本小児科学会など関連6学会は、「小児MIS-C/PIMS診療コンセンサスステートメント」を作成し、5月19日に公開した。MIS-C/PIMSは新しい疾患概念であり、診断が難しく治療法も定まっていない。ステートメントでは初診時にMIS-C/PIMSの診断基準を満たさなくても、急激に症状の悪化を来す例があるとして、MIS-C/PIMSを早期に疑い、的確に診断および治療につなげるために、疑うべき患者の症状や鑑別診断の方法などを提示。その上で「MIS-C/PIMSと似た病態を示す疾患の鑑別診断を常に念頭に置いて診療する必要がある」としている(関連記事「コロナ感染で発生、小児多系統炎症性症候群」「新型コロナ感染川崎病患児は認められず」)

一部の患者に川崎病様の症状も、相違点も多く

 ステートメントは①EXECUTIVE SUMMARY②総論(小児のCOVID-19とMIS-C/PIMSについて)③診断④治療⑤レジストリと検体保存について-の5項目で構成される。現時点でMIS-C/PIMSに関するエビデンスが十分でないため、文献のナラティブレビューとエキスパートオピニオンを軸にステートメントを作成し、今後新しい知見を基に更新していく予定だとしている。

 MIS-C/PIMSは海外で多数報告されているが、国内ではCOVID-19流行第三波のピーク後に、日本川崎病学会が行った症例検討会において数例確認された。症例数は少ないものの、今後の流行状況によりMIS-C/PIMSに対する注意が必要と考えられている。

 MIS-C/PIMS患者953例の系統的レビューによると、発症年齢の中央値は8.4歳と年長児に多く、人種はアフリカ系が37.0%と最も多かった。肥満を除き、基礎疾患を有する人はまれだった。発熱が必発し、胃腸症状(85.6%)や心血管系症状(79.3%)が多く認められ、過半数(56.3%)でショックを伴っていた。一部には、発疹や眼球結膜充血など部分的に川崎病様の症状が認められ、川崎病の診断基準を満たす例は22~64%とされるため、川崎病様症状を呈していなくてもMIS-C/PIMSを否定できない。すなわち、MIS-C/PIMSと川崎病には症状や検査所見に相違点も多く、同一のスペクトラムに属する疾患なのか否かについて結論は得られていない。

 海外の報告では、MIS-C/PIMS患者の73.3%が小児集中治療室での治療を要し、3.8%が体外式膜型人工肺(ECMO)を使用していた。重症度は高いものの、死亡率は1.9%と低値であった。ステートメントでは「今後、川崎病との異同を含め、詳細な病態が解明され、適切な治療がなされることが期待される」と指摘した。

発熱、複数臓器の異常、炎症を示す検査所見あれば疑い例に

 MIS-C/PIMSの診断ポイントとしては、「発熱以外に腹痛、嘔吐、下痢などの腹部症状や循環器症状など複数の臓器障害を示す症状があり、炎症を示す検査データが得られた場合に疑うべき」としている。一方、皮疹、眼球結膜充血、口腔粘膜所見、手足の浮腫などの川崎病様症状を呈し、その診断基準を満たす例が22~64%に見られるとされる。呼吸器症状の頻度(21~65%)は消化器症状(60~100%)に比べてやや低く、必須ではないという。

 ステートメントでは、症状からMIS-C/PIMSを疑った場合には診断アルゴリズム()および確定診断のために行う検査(表1)を参考に診断することを勧めている。

図.MIS-C/PIMSの診断アルゴリズム

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表1.MIS-C/PIMSの確定診断に必要な検査

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 特徴的な検査所見は、C反応性蛋白(CRP)高値、血沈亢進、好中球増多、リンパ球減少など。心エコーで左室駆出率の低下やショック症状が見られた場合はMIS-C/PIMSの可能性が高いが、循環不全が見られない例もあるという。

 一方で、MIS-C/PIMS患者の60%はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査陰性/抗体陽性であったと報告され、PCR陰性でも否定できない点に注意が必要だとしている。MIS-C/PIMS は COVID-19罹患から約1カ月程度遅れて発症することが知られており、診断には抗体による評価が必要となるケースが多いという。その場合は抗体検査を実施し、2種類の検査法(CMIAとECLIA)を考慮することが望ましいとしている。

国内では、川崎病や消化管感染症との鑑別が重要に

 鑑別診断では、川崎病、川崎病ショック症候群(ショックを伴う川崎病)、心筋炎、敗血症をはじめ鑑別すべき疾患は多岐にわたるが、日本国内で鑑別の頻度が高いのは川崎病、消化管感染症だ。中でも川崎病との鑑別のポイントは①MIS-C/PIMSでは年齢が高く②循環不全が目立つ③強い腹痛を伴うことがある④川崎病診断基準の4項目以下であることが多いーという(表2)。

表2.MIS-C/PIMSと川崎病の相違点

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(図、表1、2とも「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント」から抜粋)

 MIS-C/PIMS患者では、急速に循環不全、ショックを来し集中治療室(ICU)などでの管理を必要とする患者が認められるため、敗血症や心筋炎などとの鑑別が必要だという。いずれも、2~6週前にCOVID-19の罹患あるいは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者との接触があったか否かの問診が最も重要で、SARS-CoV-2のPCR検査や血清診断を行うことが求められる。

 検査所見では、MIS-C/PIMSはリンパ球減少および血小板数減少を来す例が多く、赤血球沈降速度の亢進を認めるものの川崎病ほど著しくない場合が多い。N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-ProBNP)値、フェリチン値が著明に上昇している例が存在するという。その他、呼吸器症状が目立ち、皮膚症状、循環不全が少ない小児では、まれな急性重症COVID-19との鑑別も必要となる。

 全身状態不良の患者では、胸部X線、心電図、心エコー、トロポニン、BNP/NT-pro BNP、D-ダイマー、フィブリノーゲン、プロトロンビン時間(PT)/活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)検査などを行う。心エコー図では冠動脈異常の報告もあるが、むしろ心筋炎のような心機能異常を認める例が多く、凝固線溶系の異常を認めることが多いのも特徴的だ。

初期治療は免疫グロブリン、不応例はグルココルチコイド

 ステートメントでは、治療法について重症COVID-19、川崎病や全身性炎症性疾患〔ショック、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)、マクロファージ活性化症候〕〕の治療を参考として提示。医学的に十分検討された治療法や治療アルゴリズムは確立していないため、海外におけるCOVID-19やMIS-C/PIMSに対する治療ガイダンスを参考に日本国内の診療事情に合わせて作成した。

 初期治療では、免疫グロブリン(IVIG、完全分子型)を考慮し、IVIGの効果不十分例に対してはグルココルチコイドの追加を検討することを求めた。MIS-C/PIMS診断時にショックまたは心機能低下など重篤な臓器障害を伴っている場合は、初期治療からIVIGとの併用を考慮し、心機能低下が著しい例や水分管理に難渋する例ではプレドニゾロン(またはメチルプレドニゾロン)を初期治療薬として考慮するとしている。

 一方、IVIGやグルココルチコイド治療が効果不応で、病勢が進行する重症例には生物学的製剤の使用を検討することを求めた。各生物学的製剤の有効率は不明であり、適用や使用法については、MIS-C/PIMSでの使用経験がある施設や小児リウマチの専門施設と検討する必要があるとしている。なお、川崎病の診断を満たす場合はインフリキシマブを考慮する。

 MIS-C/PIMS患者は多臓器(呼吸器系、循環器系、神経系、腎、消化器系、凝固系など)に炎症が生じるのが特徴で、それに伴いさまざまな症状が現れる。まだエビデンスが限定的であり、どのような臨床経過をたどるかの予測は難しいため、「全身を臓器ごとに評価して、時宜を逸さずに確実に支持することが肝要である」とした。

 さらに、国内のMIS-C/PIMSの病態解明を目指し、日本小児科学会レジストリへの登録に加え、検体保存などについても協力を求めている。

(小沼紀子)