昭和大学薬学部准教授の柴田佳太氏らの研究グループは、東京農工大学、バイオベンチャーのティムスと共同開発している新規の脳梗塞治療候補薬TMS-007の第Ⅱ相試験を終了し、有効性が得られたと発表した。それによると、主要評価項目である症候性頭蓋内出血の発生は見られず、血管の再開通と患者の機能回復において効果を示したという。出血などの副作用が少ない治療薬として期待される。

t-PAまたは血栓除去術の適応外の患者を対象に検討

 TMS-007は東京農工大学の蓮見惠司教授らがクロカビから発見した新規化合物。低分子のプラスミノーゲン活性化因子で、血栓を破壊する作用とともに血栓部位の局所的炎症を阻害する可能性を有する。

 柴田氏らは脳梗塞病態モデルマウスにTMS-007を投与した実験で、脳内出血を引き起こさずに顕著な効果を示すことを発見。2015年8月に開始された第I相試験で安全性が確認されたことから、第Ⅱ相試験に着手した。

 第Ⅱ相試験は、発症後12時間以内の急性虚血性脳卒中(脳梗塞)患者のうち血栓溶解薬の組織プラスミーノゲンアクチベータ(t-PA)や血栓回収療法が適用にならない患者を対象とした多施設単回投与二重盲検ランダム化プラセボ対照漸増用量試験。日本国内の90例の患者を登録し、TMS-007投与群(52例)とプラセボ投与群(38例)で有効性および安全性を比較した。TMS-007の投与を受けた被験者が治療を受けるまでの平均時間は9.5時間、プラセボ群では9.3時間だった。

頭蓋内出血の発生なし、血管再開通率でポジティブな結果

 主要評価項目は安全性で、米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアで4ポイント以上の悪化を示した症候性頭蓋内出血(sICH)の発生率。TMS-007投与群で発生は認められなかったが、プラセボ群は3%だった。この結果から、TMS-007は従来の血栓溶解薬で指摘されていたような重篤な合併症である頭蓋内出血の懸念がないことが示された。

 副次評価項目は90日後の機能的自立度の改善効果で、TMS-007群では40%が日常生活における機能自立度の指標であるmodified Rankin Scale(mRS)で0~1点のスコアを達成し、後遺症や重篤な障害も発症しなかったのに対して、プラセボ群では18%であった(P≦0.05)。

 磁気共鳴血管撮影で評価した血管の再開通率は、プラセボ群の26.7%(15例中4例)に対し、TMS-007群では58.3%(24例中14例)であった(オッズ比4.23、95%CI 0.99~18.07)。

 脳梗塞の治療では、発症から3~4.5時間を過ぎると血栓を溶かす血栓溶解剤t-PAは使用できない。また、発症から8時間までであれば、血栓を取り除く血栓回収療法も行われるが、対象となる患者は一部にとどまる。治療薬の開発をめぐっても、これまで多くの脳梗塞治療薬候補物質の開発が進められたが、そのほとんど承認に至っておらず、脳梗塞に対する直近の血栓溶解薬が承認されてから約25年が経過している。TMS-007は、血栓溶解療法を受けられる可能性のある患者を増やし、脳卒中後の機能的自立の可能性を高めることができると期待されている。

(小沼紀子)