新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染力を強化するだけでなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化にも関与する可能性がある抗体(感染増強抗体)を発見した、と大阪大学微生物病研究所教授の荒瀬尚氏らがCell2021年5月24日オンライン版)に発表した。今回の研究結果から、感染増強抗体の産生量に基づき事前に重症化しやすい患者のスクリーニングや、感染増強抗体の産生を誘導させないワクチンの開発などが期待できるという。

一部のウイルスで感染増強抗体を確認

 ウイルスへの感染やワクチン投与によって体内では中和抗体がつくられることが知られているが、今回発見されたのは逆にウイルスの感染力を増強させる抗体だ。これまで、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)ワクチン開発時にサルを用いた実験において接種群で肺炎が悪化する現象が見られた他、2017年にフィリピンにおけるデング熱ワクチン接種で誘導された抗体によって感染が増強する抗体依存性感染増強現象(ADE)の発生が確認された。しかし、SARS-CoV-2では同様の現象の報告はなかった。

 SARS-CoV-2ウイルスは、ウイルス表面に発現しているスパイク(S)蛋白質が、ヒトの細胞表面にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)2受容体に結合することでヒトの細胞質内へ侵入して感染する。S蛋白質は、N端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、S2ドメインで構成され、うちRBDに対する抗体は、ACEとの結合を阻害してARS-CoV-2の感染を抑える中和抗体として重要な役割を担っている。しかし、その他の抗体の機能は不明だった。

中和抗体の感染予防作用を減弱

 そこで荒瀬氏らは、COVID-19患者での免疫細胞から同定し76種の抗体について、S蛋白質に対する機能を解析した。

 解析の結果、S蛋白質によるACE2への結合性を阻害するのは、抗RBD中和抗体だけでなく、NTDに対する抗体の中にACE2の結合性を増加させる抗NTD感染増強抗体が存在することが分かった。この抗体は中和抗体によるACE2結合性阻害能を弱めるだけでなく、SARS-CoV-2のACE2発現細胞への感染力を顕著に増加させることが判明。さらに、NTDがS蛋白質の機能を制御している重要な領域であることも明らかになった。

 同氏らが、COVID-19患者重症例と非重症例で感染増強抗体と中和抗体を測定し、その差を解析したところ、重症例では感染増強抗体が高い傾向が見られた。ただし、非感染者でもこの抗体を持つ例が存在していたことから、SARS-CoV-2感染やワクチン投与によって感染増強抗体の産生が増える可能性が考えられるという。

 荒瀬氏らは「感染増強抗体がCOVID-19の重症化に関与している可能性もあるが、今後の詳細な解析が必要」と指摘。一方で、「感染増強抗体の産生量を解析することで、重症化しやすい人を検査できる可能性がある。また今回の研究結果は、感染増強抗体の産生を誘導させないワクチン開発においても重要であり、これまで主にRBDの機能のみが注目されてきたが、NTDを標的にした感染制御法の開発というアプローチも考えられる」と結論している。

(小沼紀子)