政府が、企業や大学など「職域」でのワクチン接種を今月中旬以降に開始すると打ち出した。新型コロナウイルス対応を「後手」と厳しく批判される中、接種ルートの多様化で巻き返す狙いがある。ただ、現状でも医療提供体制は各地で逼迫(ひっぱく)しており、医療従事者の確保など課題は少なくない。
 「職域を通じた接種が増えることで、市町村が実施する接種も受けやすくなり、加速化することが期待される」。加藤勝信官房長官は1日の記者会見でこう強調した。
 首相官邸ホームページの5月31日現在のデータでは、2回接種が必要なワクチンで1回目を終えた医療従事者は、約480万人のうち約458万人。一方、約3600万人いる65歳以上の高齢者については約518万人で、わずか14%余りにとどまる。
 直近の1日当たりの接種数について、菅義偉首相は「40万~50万回」としている。内閣官房の担当者によると、自治体によっては接種記録システムへの登録が遅れることがあり、現段階で「1日当たり計70万回弱まで来ている」という。首相が高齢者接種で掲げた「1日100万回」目標も達成可能との認識だ。
 それでも首相が「相当な急ピッチ」(周辺)で接種拡大を図るのは、7月23日に始まる東京五輪・パラリンピックが念頭にある。接種の裾野を広げて感染拡大を抑え、「安心安全」な大会開催につなげたとアピールしたいとの思惑が透ける。
 もう一つは、職域接種に使用する米モデルナ製ワクチンの使用には製造日から6カ月という制限があることだ。先行する米ファイザー製による高齢者接種の完了を待っていては、大量の供給契約を結んだモデルナ製の使用期限が訪れることも考えられる。政府高官は「ワクチンの有効期限もある」と語った。
 与党内では、衆院選に向けた反転攻勢へ期待が膨らむ。自民党の佐藤勉総務会長は1日の会見で「職域で打つのは促進のエンジンになる」と歓迎した。党幹部は「ワクチンを打つだけで相当安心感がある。国民の不安を取り除くことができる」と語った。
 課題は医療従事者の確保だ。事業規模によっては産業医を雇用する企業もあるが、速やかな接種には問診する別の医師や看護師も必要。ワクチン保管への手当て、輸送方法も不明だ。政府は自治体による接種券発行が間に合わなければ、企業などに事後的に登録してもらうと説明しているが、処理漏れで混乱する可能性もある。
 立憲民主党の福山哲郎幹事長は会見で「急ぐ気持ちは分かるが、現場が混乱しない仕組みを説明していただきたい」と注文した。 (C)時事通信社