アストラゼネカ(AZ)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「バキスゼブリア筋注」〔一般名コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組み換えサルアデノウイルスベクター)〕が5月21日に特例承認されたものの、接種が見送られる事態が続いている。AZワクチンの一部をSARS-CoV-2感染者が急増している台湾に提供するという動きもある中、日本ワクチン学会は「まずは日本での活用が不可欠」との見解を示した

血栓症の副反応発現率は100万回接種で6.5件

 AZワクチンは、遺伝子組み換えサルアデノウイルスベクターを用いた新しいタイプのワクチンである。海外の臨床試験では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症予防効果は76%、重症化および死亡抑制効果は100%とされている(関連記事「AZのコロナワクチン、有効率は76%」)。

 市販後の副反応として極めてまれではあるが塞栓および血栓の事例が確認されており、欧州医薬品庁(EMA)は2021年4月4日現在、約3,400万回接種で222件(100万回接種当たり6.5件)の血栓症が発現したと報告している。多くが60歳未満の女性で、接種後2週間以内に発症するとされる(EMA AstraZeneca's COVID-19 vaccine、関連記事「コロナワクチン接種後に発生する血栓症」「再論・コロナワクチン接種後に発生する血栓症」)。

 国内における第Ⅰ/Ⅱ相試験では、同ワクチンを投与した192例において血栓症の発現は認められなかった。

 EMAは年齢ごとのSARS-CoV-2感染率、COVID-19重症化率、死亡率とAZワクチンの副反応の発生率を考慮するとリスクをベネフィットが上回るとし、接種を行うことを提案している(EMA Annex to Vaxzevria Art.5.3 - Visual risk contextualisation)。同学会は「日本においても年齢や性、基礎疾患の有無なども勘案して接種対象を選定し、同ワクチンの接種を進めることも一案」と訴えている。

他のワクチンと異なる特徴が利点になりうる

 同学会は「異なるワクチンの効果は同じ状況下で比較されたものではないため、既報における(ワクチンの有効性や副反応の発現率などの)数値の違いだけに惑わされることなく、同ワクチンの一連の特徴を十分に理解する必要がある」と指摘。

 また、通常の冷蔵温度(2~8℃)で最低6カ月間保管、輸送および管理が可能であり、既存の医療体制において投与が可能である点にも言及し、①一般の診療所でインフルエンザワクチンなどと同様の取り扱いで個別接種が可能である②安定した状態での搬送が困難な僻地における訪問接種にも適している―など、「日本で特例承認された他のSARS-CoV-2ワクチンとは異なる特徴が利点になりうる」との見解を示した。

 さらに、世界中でワクチン接種によるCOVID-19への対策が喫緊の課題となる中、特例承認はされたものの国内で使用されないという状況は国際的な理解を得られないばかりでなく、限られたワクチンを公平に分配するという国際共同調達制度COVAXなどが掲げる国際協力の理念に反し、「批判は免れない」と苦言を呈している。

 加えて、「承認はされても使用されない」という前例が、今後ワクチンの領域だけでなくさまざまな医薬品の新規開発に対して大きな障害となることも危惧されるとし、「まずは日本での同ワクチンの活用が不可欠」と結論している。

(渕本 稔)