国立がん研究センターの研究グループは、シスメックス社と共同開発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体検出試薬を用い、がん患者と健常人で抗体保有率および抗体量を比較検討した前向き横断研究の結果をJAMA Oncol(2021年5月28日オンライン版)に発表。両者で抗体保有率に有意差はなかったものの、抗体量はがん患者で有意に少なかった。またがん患者のうち直近で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与している例では、非投与例と比べて抗体量が有意に多かったことを報告した。

国がんのがん患者と職員を比較

 今回の検討では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疑い例を除く、①コホート1:国立がん研究センター中央病院の16歳以上のがん患者(がん患者群500例、登録期間は2020年8月3日~31日)②コホート2:同院と国立がん研究センター東病院の健康な職員(健常人群1,190例、同2020年9月1日~10月30日)-を対象とした。

 SARS-CoV-2抗体検査にはシスメックス社製の抗体検出試薬を用い、ヌクレオカプシド(N)蛋白質とスパイク(S)蛋白質に対するIgGおよびIgMの2種類の抗体を測定。主要評価項目は、がん患者群および健常人群におけるSARS-CoV-2抗体レベルと血清陽性率とした。

 ベースライン時の背景は、がん患者群と健常人群でそれぞれ年齢中央値は62.5歳、40歳、男性は55.4%、25.4%だった。各群の構成を見ると、がん患者群のがんの内訳は97.8%が固形がんで、がん種は多い順に肺がん(16.8%)、中枢神経腫瘍(15.0%)、乳がん(13.2%)だった。進行がんは57.4%を占めた。71.0%のがん患者が登録1カ月以内に薬物治療を含むなんらかの抗がん治療を受けており、内訳は外科手術が7%、放射線治療が4.8%、細胞障害性抗がん薬が40.8%、ICIが8.8%、分子標的薬が18.4%だった。一方、健常人群の構成は、多い順に看護師または看護助手(32.3%)、管理部門(22.4%)、研究者(16.6%)、医師(15.0%)、技術者(9.5%)、薬剤師(4.2%)であった。 健常人群と比べて、がん患者群では過去/現喫煙者(14.0% vs. 53.0%)が多く、その他、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病などの有病率も高かった。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法により過去にCOVID-19と診断されていた例は、各群3例だった。

がん患者では治療内容が抗体量に影響を与える可能性を示唆

 解析の結果、N-IgGまたはS-IgGのいずれかを血清陽性としたSARS-CoV-2抗体の血清陽性率は、全体で0.77%(95%CI 0.41~1.31%)、7例が両方の検査で陽性を示した。各群の血清陽性率は、がん患者群が1.0%(同0.33~2.32%)、健常人群が0.67%(同0.29~1.32%)とintention-to-treat(ITT)集団では有意差が認められず(P=0.48)、過去にCOVID-19と診断されていた6例を除いても有意差はなかった。血清SARS-CoV-2抗体レベルは、N-IgG・S-IgG抗体、N-IgM・S-IgM抗体ともがん患者群と比べて健常人群で有意に低かった(P<0.0001、図1)。

図1. がん患者群と健常人群における抗体量の比較

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 また、がん患者のみを対象として抗体量に影響を及ぼす因子を探索したところ、同検討への登録1カ月以内に細胞障害性抗がん薬で治療している患者群ではN-IgG値が低く、ICIで治療している患者群ではN-IgG、S-IgG値が高かった(図2)。

図2. がん薬物療法と抗体量の関連 

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(図1、2とも国立がん研究センタープレスリリースより引用)

 この結果は、年齢、性、合併症の有無、喫煙歴を調整後も同様であったが、放射線治療や外科治療の有無で抗体量に差は認められなかった。 今回の結果を踏まえ、研究グループは「がん患者と健常人でSARS-CoV-2の血清陽性率に差はなかったが、がん患者では治療内容によってSARS-CoV-2抗体レベルに違いが生じる可能性が示された」と述べている。

(編集部)