米食品医薬品局(FDA)は6月7日(現地時間)、バイオジェンとエーザイが共同で開発したアルツハイマー病(AD)治療薬aducanumab(米国商品名Aduhelm)を条件付きで迅速承認した(関連記事「アルツハイマー薬、米で承認 世界初、エーザイが共同開発」)。ADの原因物質の1つと考えられているアミロイドβ(Aβ)を標的とした抗Aβ抗体で、脳内のAβを除去し、臨床症状の悪化を抑制する初の治療薬として期待されている。FDAは承認の条件として、ランダム化比較試験(RCT)の実施を求めている。

苦難乗り越え、承認にたどり着いた薬剤

 aducanumabは2019年3月に臨床試験がいったん中止されたものの、一転、同年10月には再開するなど、申請に至るまで紆余曲折を経てきた。ADの治療をめぐっては、病態進行を遅らせる薬剤が長年切望されていた中で、根治を目指した治療薬の開発は全て失敗に終わり、2003年以降、新薬は登場していない。こうした苦難を乗り越えて承認にたどり着いた同薬の登場は、認知症治療の歴史を塗り替える画期的な出来事といえよう。

 aducanumabは、Aβの中でも毒性が強いとされるAβ凝集体を標的とする化合物で、これを取り除くことで、認知症を抑える効果が期待される。軽度認知障害(MCI)および軽症ADの患者において、認知機能の低下(悪化)抑制が期待されている(関連記事「AD治療薬で有望な結果-アミロイド減少,認知機能低下も抑制」「アミロイドβの除去に成功か?」)。

2件の試験結果は相反する結果に

 aducanumabは、2件の第Ⅲ相試験(ENGAGE、EMERGE)において、ADの初期段階(MCIおよび軽度認知症)の患者3,482例を対象に有効性を検討。認知機能低下・臨床症状の抑制効果をプラセボと比較した結果、「主要評価項目が達成される可能性が低い」との結論に至り、2019年3月に試験中止が発表された(関連記事「認知症薬の最有力候補が開発中止に」)。その後、FDAとの協議に基づき、試験中止後に新たに利用可能となった患者データを追加し、18カ月の試験期間を終了した被験者のデータを解析。EMERGE試験における主要評価項目で有意な結果が示されたとして、一転、同薬の承認を目指すと発表した。

 この解析で、aducanumabの高用量投与群では主要評価項目である臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)において、投与78週時でのベースラインからの臨床症状悪化を23%有意に抑制。また、アミロイドプラーク沈着のイメージングにより、aducanumabの低用量群および高用量群の両群において、プラセボ群と比べて26週時および78週時におけるアミロイドプラーク沈着の減少が確認されたとしている。加えて、脳脊髄液中のタウ蛋白レベルに関するバイオマーカーによっても臨床所見が裏付けられたという。

 だが、ENGAGE試験については主要評価項目を達成できず、2件の試験結果は相反する結果となった。バイオジェンではこの結果について「サブグループにおいてはEMERGE試験を支持する結果であったと考えている」との見解を示していた。

 バイオジェンとエーザイはこれらの臨床データに基づき、2020年7月にaducanumabの生物製剤ライセンス申請を完了し、FDAは翌月に受理。その後、FDAの末梢・中枢神経系薬物諮問委員会が同年11月6日に行った審査で、EMERGE・ENGAGE試験で示された同薬の有効性を支持するエビデンスについて否定的な見解が大勢を占めたことから、FDAが下す承認の可否に注目が集まっていた。なお、FDAは承認の条件として、臨床的ベネフィットを検証するRCTの実施を求めており、ベネフィットが確認できなかった場合は承認を撤回する手続きを取るとしている。

 aducanumabは日本国内では、2020年12月に承認申請が行われた(関連記事「認知症治療薬、承認申請へ再挑戦」)。

処方時の警告にアミロイド関連画像異常、血管浮腫・蕁麻疹を記載

 今回両社の共同リリースによると、aducanumabはAβの減少に対する用量依存的かつ投与期間依存的な効果〔ENGAGE試験で59%の減少(P<0.0001)、EMERGE試験で71%の減少(P<0.0001)、PRIME試験で61%の減少(P<0.0001))を示したとしている。

 一方、処方時の警告として、MRIで観察されるアミロイド関連画像異常 (ARIA) および血管浮腫や蕁麻疹などの過敏症反応のリスクを明記し、注意喚起している。aducanumabを1回以上投与された3,000例の解析において、有害事象としてARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)が最も多く報告され、発現率はプラセボ群の10%に対し、aducanumab投与群では41%だった。

 ARIAは通常は一過性で症状は現れないものの、重篤になる可能性があるとして、症状が認められた場合は迅速に医師に連絡または最寄りの医療機関で診察を受ける必要があるとしている。ARIAで最も頻度が高い症状は頭痛で、その他に、錯乱、めまい、視力の変化、吐き気などを伴うケースがあるという。

 また、ARIAが生じた一部の患者で、浮腫に加え脳の内部または表面に小さな出血の斑点が現れることがあり、aducanumabの処方前および治療中はMRIで検査を行い、ARIAについて確認するよう求めた。さらに、同薬投与中に顔、唇、口、舌の腫れ、蕁麻疹が現れることがあり、投与中または投与後に深刻なアレルギー反応の症状が見られた場合、患者は医師に報告するよう注意喚起をしている。

(小沼紀子)