日本では、海外メーカー3社(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ)による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンが承認されているが、国内メーカー製品は臨床試験が進んでいるものの承認申請のめどは立っていない。6月4日、こうした現状について日本ワクチン学会が見解を公表。「国内でのワクチン開発や生産体制強化に向けた長期戦略について、多方面からの対策を検討すべき」と提言した。(関連記事:「AZワクチン、まず日本での活用が不可欠」

「ワクチン強化戦略」が閣議決定

 国産のSARS-CoV-2ワクチンをめぐっては、バイオベンチャーのアンジェスが昨年(2020年)3月にDNAワクチンの開発開始を表明し、現在第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験が進行している。その他、塩野義製薬が遺伝子組み換え蛋白ワクチン、第一三共がメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン、KMバイオロジクスが不活化ワクチンの第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験をそれぞれ進めているが、海外の製薬大手に大きく後れを取っている。(関連記事:「新型コロナワクチン開発へ、半年で臨床試験」「コロナDNAワクチン、第Ⅱ/Ⅲ相試験へ」

 このような背景から、日本政府は6月1日に国産ワクチン開発の長期戦略をまとめた「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定。世界トップレベルの研究開発拠点(フラッグシップ拠点)の形成、研究費のファンディング機能の強化、薬事承認プロセスの迅速化、治験環境の整備・拡充などの方針を示した。特に研究費については、戦略的な配分を行う体制を日本医療研究開発機構(AMED)内に新設するという。

臨床試験、薬事承認制度に課題

 一方、日本ワクチン学会は今回の見解の中で、今後の国産ワクチン開発における課題として、既に有効なワクチンが承認された現状でのプラセボ対照試験実施の倫理的問題を指摘。この問題を解決するため、プラセボ対照試験が担保していたエビデンスを①複数の試験②適切な動物モデルでの薬効試験③一定数の症例を組み入れた安全性試験④免疫原性を評価する実薬対照試験⑤市販後臨床試験や調査を活用した発症予防効果の確認―で代替する「リバランス」の必要性を強調。ワクチン開発企業4社はリバランスの考え方に基づき、AMEDや医薬品医療機器総合機構(PMDA)などと「早急に協議を行い、最終的な開発データの取得を進め、臨床試験結果を遅滞なく国民に公開すべきである」とした。

 日本の薬事承認制度についても、有効性と安全性が期待できるデータが取得されている場合、緊急承認・条件付き承認によるワクチン供給を「検討すべき」と提言。緊急時を想定していない現行の医薬品安全性監視に対し「抜本的な改革が望まれる」と要望した。

 他にも、国産ワクチン開発の中長期的な展望として、省庁横断的な支援体制の整備、民間活力の積極活用、広範な分野での人材育成、研究資金の適切な配分、ベンチャー企業の育成などを提案。「国産ワクチン開発および接種事業に関する現状を真摯に受け止め、学会として可能な努力を最大限推進し、ワクチンに関わる全てにコミットし貢献する所存」としている。

(平山茂樹)