国立がん研究センター予防研究グループはこのほど、Helicobacter pylori(以下、H. pylori)除菌治療者のH. pylori IgG抗体価(以下、H. pylori抗体価)の長期的推移についての研究結果をJ Epidemiol2021年4月28日オンライン版)に発表。H. pylori除菌後1年未満でH. pylori抗体価は70%以上低下するが、それでも約4割は陽性のままであり、陰性化までにはある程度時間がかかることを明らかにした。

16地域の血液サンプル約2万8,700例を調査

 H.pyloriは胃がんの原因の約90%を占めるとされており(Int J Cancer 2015; 136: 487-490)、日本はH.pyloriの感染率および胃がん罹患率が高い国のひとつだ。2013年にはピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり、除菌を受ける患者数は大幅に増加した。しかし、除菌後のH.pylori抗体価の長期的な推移については、大規模な報告がなく明らかになっていなかった。そこで、研究グループは2011年~2016年の6年間にかけて、次世代多目的コホート研究JPHC-NEXT Studyの対象16地域から40~74歳の血液サンプル提供を受け、その中から胃がんの既往がなくH.pylori除菌療法を受けたことがあると申告した6,276例および、除菌歴の申告がなく血液検査でH.pylori陽性または萎縮性胃炎と判明した2万2,420例の計2万8,696例を対象に調査を実施した。

 アンケートの回答を基に、対象をH.pylori未除菌、除菌後1年未満、1~5年以内、6年以上の4群に分け、未除菌者と除菌経験者のH.pylori抗体価を比較。また、H.pylori抗体価10U/mL以上をH.pylori陽性と定義し、4群における陽性者の割合を調べた。

 その結果、H.pylori抗体価は、除菌後1年未満群で76.8%、1~5年以内群で88.2%、6年以上群で91.5%有意に低下した(P<0.01、χ2検定)。H.pylori陽性者の割合は除菌後1年未満群で41.0%、1~5年以内群で16.0%、6年以上群で11.0%であり、除菌後H.pylori抗体価が低下しても、陰性化するまでには時間がかかることが分かった()。また、年齢や性による推移の違いはほとんどなかった。

図.除菌治療歴別に見たピロリ菌抗体陽性者の割合(平滑化スプライン曲線)

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(国立がん研究センタープレスリリースより引用)

胃がんリスクを判定する指標となることに期待

 日本人のH.pylori除菌に関する先行研究では、除菌成功から4年経過時点で陽性者は見られなかったが、再感染や再発の可能性はあり、長期的に陰性を維持できるとは考えがたいというもの (Japanese Journal of Helicobactor Research 2017; 19: 43-49)や、除菌から6年経過後に陰性だった症例は23.5%にすぎなかった(Progress of Digestive Endoscopy 2006; 69: 31-36)など、さまざまな報告がある。研究によって除菌方法や除菌前の患者の状態が異なっていたり、長期的な経過観察が困難であることなどの理由により、結果には幅があるのが実情だ。

 今回の研究にも先行研究と同様、幾つかの方法的な限界はある。まず、除菌歴が自己申告によって評価されており、除菌歴のある対象者の治療が本当に成功していたかどうかが必ずしも正確には分からないことだ。除菌歴がないと申告した対象者の中に、過去に治療を受けていたというケースが含まれることもありうる。また、除菌歴のある対象者がどのような除菌療法を受けたか同定できなかったという点にも注意が必要だ。

 研究グループは上記の問題点を踏まえつつ、胃がんリスクを判定する指標として、H.pylori除菌の有無だけでなく抗体価の経時的推移にも注目する必要があるとしている。

(中原将隆)