転落を含む転倒は老年症候群の代表的な症候であり、その原因は多様かつ複合的なため、対策の有無にかかわらず一定の頻度で発生する。転倒による骨折や頭蓋内出血はQOLや予後の悪化を招くことから、介護施設入所者に対して転倒リスクを評価し積極的に介入することが推奨される。日本老年医学会は全国老人保健施設協会とともに「介護施設内での転倒に関するステートメント」を作成、公開した。

転倒は老年症候群の1つであり、完全な予防は不可能

 日本老年医学会は第63回学術集会(6月11〜27日、ウェブ開催)に合わせて開催したプレスセミナーでステートメントを公開。ステートメント作成の背景について、全国老人保健施設協会会長の東憲太郎氏が解説した。

 介護施設には入所者の転倒に対する「予見義務」と「回避義務」があるが、対策により転倒を完全に防げるわけではない。そのため、高齢者の転倒の要因、対策、危険度などをエビデンスに基づいて解説し、入所者の家族や社会に広く周知することが求められていたという。ステートメントの目的について、同氏は「介護施設の転倒はなぜ起きるのか、どう防ぐのか、防げないものはあるのかについて、入所者とその家族、施設で共通認識を得ること」と述べた。

 同学会「老年症候群の観点から見た転倒予防とその限界に関する検討ワーキンググループ」委員長で大阪大学大学院老年・総合内科学教授の楽木宏実氏は、ステートメントの内容を概説。「転倒・転落の状況は多様で、手術や生命のリスク、心身の傷害につながるため、その後の対応も含めて対策を考えなければならない」という(図1)。

図1. 転倒発生の状況・経過と対応

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(「介護施設内での転倒を知っていただくために 国民の皆様へのメッセージ」)

予防策と対応手順を整備し、関係者に周知を

 ステートメントは①転倒すべてが過失による事故ではない②ケアやリハビリテーションは原則として継続する③転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る④転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る―の4点から成る。

 予防策を講じていても転倒は一定の割合で生じ、必ずしも医療や介護現場の過失による事故とは位置付けられない。一方、生活機能の維持・改善を目的としたケアやリハビリテーションは活動性の向上に伴い転倒リスクが上昇する可能性があるが、QOLの維持・改善が期待できるため継続する必要がある。

 また、転倒は老年症候群の1つであり(図2)、転倒に基づく骨折や死亡は老年症候群の自然経過の1つであることなどを事前に利用者とその家族に説明し、共通認識を得ることが求められる。

図2. 老年症候群としての転倒

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(「介護施設内での転倒に関するステートメント」)

 その上で、施設の実情を踏まえた適切な予防策と発生時の対応手順を整備し、職員への周知徹底を図るとともに利用者とその家族に事前説明を行い、エビデンスや技術の進展に合わせて定期的に見直すべきとしている。

国民への啓発のため簡易版も制作

 また前述の4点に加え、「老年症候群としての転倒についての基礎知識」「転倒予防の概念と転倒発生時の対応」「日本における転倒に関連した介護や死亡の現状」「施設における転倒および転倒関連傷害の実態」「施設における転倒および転倒関連傷害の予防に関する科学的エビデンス」「転倒リスクを考慮しながら実践する施設入所者の生活機能維持・改善の取り組みの重要性」などについても詳述されている。

 楽木氏は「ステートメントは転倒やそれに伴う傷害を予防しようとする施設の姿勢や取り組みと、発生した事故を状況に応じて受容する入所者、家族、国民全体の心象とのバランスのありようを科学的に検討したもの。このバランスを保つには転倒の発生や予防に関する情報共有と相互理解が重要である」と再度強調し、「学術団体や介護施設・団体、また産業界や行政は、転倒予防を含めた介護のレベルを向上させるための科学を進展させ、それを取り入れる体制構築に継続的に取り組むことが求められる」と付言した。

 なお、ステートメントは介護施設の医療介護従事者・管理者および関係する行政を主な対象として作成されたが、広く国民にも理解を求めることを目的に、簡易版として「介護施設内での転倒を知っていただくために 国民の皆様へのメッセージ」も作成、公開している。

(安部重範)