菅義偉首相が東京五輪・パラリンピックを新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)下で断行することは、政権の命運を左右する大きな賭けとなる。加速するワクチン接種に手応えを感じている首相は、大会を成功させ、秋までに行われる衆院選や自民党総裁選の追い風にしたい考え。ただ、大会開催中にリバウンド(感染再拡大)を招けば、批判が政権にはね返るリスクも抱える。
 「五輪をやらないという選択肢はない。10年後、20年後に『あのときパンデミックでよくやった』と評価される五輪になる」。菅内閣の閣僚は6月中旬、もはや「中止」はあり得ないと断言した。
 首相は先に英国で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で五輪挙行を「国際公約」に掲げ退路を断った。21日には記者団に、緊急事態宣言が再び発令された場合「無観客も辞さない」と表明した。これは宣言下となっても大会を開催あるいは続行する決意の裏返しとも取れる。
 国内外で根強い五輪反対論をはねのけようと、首相が局面打開の手段としたのがワクチン接種だ。自らアクセルを踏み続け、目標とした1日100万回接種は達成したと強調。7月末までの高齢者接種完了も射程に入れた。自民党幹部は「すごい勢いだ。首相の思った通りになっている」と指摘し、官邸幹部は「この1カ月でさらに進む。五輪までに観客の多くが少なくとも1回はワクチンを打つだろう」と語った。
 当初、国内のワクチン確保の見通しが不透明だったこともあり、接種は他の先進国より遅れていた。しかし、年末年始の感染拡大を目の当たりにした首相は医療従事者への接種開始を2月中旬に前倒しするなど、「コロナリスクを軽減するのはワクチン」との意を強くしたようだ。
 首相としては、「五輪成功」の勢いに乗って9月以降の衆院選で勝利し、総裁選を無風で乗り切るのが基本戦略。政権のコロナ対応はこれまで「場当たり」「後手」と批判を浴び続けたが、「コロナという困難を乗り越えて開催した」との「実績」が支持率回復に貢献するとの期待がある。
 政府内には「日本人選手が金メダルを取れば国内は盛り上がる」と皮算用する向きもあり、9月5日にパラ閉幕を無事迎えれば、「9月7日に首相は衆院を解散する」(派閥領袖)との見方も浮上する。
 ただ、宣言解除による対策の緩みで「第5波」到来への警戒が高まる。感染力が強いデルタ株(インド型)が日本で猛威を振るう恐れもある。医療逼迫(ひっぱく)を招けば、首相は「安全安心な大会」に失敗した烙印(らくいん)を押され、解散戦略に狂いが生じかねない。 (C)時事通信社