新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患者数や死亡者数は、なぜ国によって大きく異なるのか。帝京大学地域医療学教授の井上和男氏らは、結核菌への曝露状況に着目し、世界各国における過去の結核蔓延状況とCOVID-19との関連を検討。その結果、結核の高蔓延国ほどCOVID-19の死亡率および発症率が低いことが明らかになったと、PLoS One2021; 16: e0253169)に発表した。

日本では80代の70%が結核の既感染者

 COVID-19の影響は、アジアに比べ欧米で甚大である。国・地域ごとの感染状況の差は、社会経済的または文化的側面、衛生環境などでは説明が付かず、別の要因が存在すると推測されている。

 一説によると、結核予防ワクチンであるBCGの接種を介して、自然免疫機構を強化する「訓練免疫」が生じ、COVID-19の発症を抑制するといわれているが、一貫した結論は得られていない。また、BCGの効果持続期間は本来の結核に対してさえ15年程度とされ、乳幼児期に接種したBCGの有効性が高齢期まで持続するかは疑問である。

 一方、結核は20世紀に入るまでアジアで蔓延しており、日本でも1950年まで死因の第1位であった。そのため、高齢者の多くは若年時に結核に感染し(80歳代では70%)、潜在性結核感染症(LTBI)の状態にある。

90カ国のデータを分析

 そこで井上氏らは①LTBIが訓練免疫を強化している②過去に結核が蔓延していたアジア地域では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染被害が少なく、逆に非蔓延地域の欧米では感染被害が大きい③BCGは結核の蔓延地域で普及しており、BCG接種率が高い地域では感染被害が少ないという見かけ上の疑似相関がある―といった仮説を立てて検証した。

 英・University of Oxfordが運営するOur World in Dataから、2020年4月5日時点でCOVID-19患者数が200例以上だった98カ国のうち、1990年の結核発症率の記録が存在する90カ国のデータを抽出。結核発症率とCOVID-19死亡率および発症率との関連を、BCGの接種状況と併せて評価した。

死亡率、発症率と結核発症率に負の相関

 解析の結果、COVID-19死亡率(Spearman's ρ=-0.49、P<0.0001)、COVID-19発症率(同-0.63、P<0.0001)はいずれも、1990年の結核発症率と強い負の相関を示した()。BCG接種状況は、実施国(A)、過去に実施していたが現在は実施していない中断国(B)、未実施国(C)とした。

図.世界90カ国における1990年の結核発症率と2020年4月5日時点の累積COVID-19死亡率(上)および発症率(下)の散布図

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(帝京大学リリースより)

 グラフの右下に位置する結核発症率が高く、COVID-19死亡率および発症率が低い国はアジアで多かった。また、BCG接種が現在も実施されていた。反対に、グラフの左上に位置する結核発症率が低く、COVID-19死亡率および発症率が高い国は主に欧米諸国であり、BCG接種は未実施または中断が多かった。

 国別の高齢化率、慢性疾患有病率、1人当たりの国民総生産を調整した解析でも、結核の発症率とCOVID-19死亡率および発症率との負の相関は維持された。

 以上から、井上氏らは「世界各国におけるSARS-CoV-2感染被害の差は、BCG接種の有無よりも過去の結核蔓延状況の程度に起因する可能性が高い」と結論。「BCGが注目されたことで、高齢者などの成人COVID-19高リスク者への接種により感染を予防できるとの仮説があったが、感染予防目的でのBCG接種は推奨されない」と付言している。

(比企野綾子)