ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのPatrícia O. Guimarães氏らは、経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬トファシチニブの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効性を検討する多施設共同ランダム化比較試験(RCT)STOP-COVIDを実施した。その結果、プラセボと比べてトファシチニブはCOVID-19肺炎による入院患者の死亡または呼吸不全リスクを37%有意に低下させたことをN Engl J Med2021年6月16日オンライン版)に発表した。

15施設の289例をランダム化

 COVID-19の重症化には、インターロイキン(IL)-6や腫瘍壊死因子(TNF)αなどの血中サイトカインの過剰な産生により引き起こされるサイトカインストームが関与していると考えられている。

 一方、トファシチニブはチロシンキナーゼの1つであるJAKのうちJAK1、JAK3を選択的に阻害するだけでなくJAK2にも機能的選択性を有し、細胞内のシグナル伝達を遮断してサイトカインの産生を抑制する作用を有する。

 また、同薬はヘルパーT細胞からのサイトカイン産生も抑制し、急性呼吸窮迫症候群との関連が指摘されている各種インターフェロンやIL-6の作用を調節する作用も有する。こうしたことからGuimarães氏らは、COVID-19による入院患者に対しトファシチニブを投与することで進行性の炎症に起因した肺損傷を改善できる可能性があると考え、それを検証するために今回のRCTを実施した。

 同試験には①リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査でSARS-CoV-2感染を確認②CTまたはX線による画像検査でCOVID-19肺炎の所見を確認③入院期間は72時間以内④18歳以上-などの基準を満たした患者を組み入れた。なお、①ランダム化の時点で侵襲的または非侵襲的な機械換気、あるいは体外式膜型人工肺(ECMO)が導入された患者②血栓症の既往(または既往歴)がある患者③免疫抑制療法を受けている患者④がん治療中の患者-は除外した。

 2020年9月16日~12月13日にブラジルの15施設で289例(平均年齢56歳、女性34.9%)が登録され、このうち144例がトファシチニブ10mgを1日2回、14日間または退院まで投与する群(以下、トファシチニブ群)に、145例がプラセボ群にランダムに割り付けられた。主要評価項目は28日間の追跡期間中における死亡または呼吸不全〔臨床状態を8段階で評価する米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のOrdinal Scaleでカテゴリー6~8の基準を満たした場合と定義〕とした。

死亡または呼吸不全の発生率は18.1%

 解析の結果、死亡または呼吸不全の発生率はプラセボ群の29.0%に対し、トファシチニブ群では18.1%とリスクが37%有意に低下した(

図. 死亡または呼吸不全の累積発生率

28365_fig01.jpg

N Engl J Med 2021年6月16日オンライン版

 また、副次評価項目である全死亡の発生率はプラセボ群の5.5%に対してトファシチニブ群では2.8%〔ハザード比(HR)0.49、95%CI 0.15~1.63〕であった他、プラセボ群と比べたトファシチニブ群におけるOrdinal Scaleのスコア悪化の比例オッズは14日後の時点で0.60(同0.36~1.00)、28日後の時点で0.54(同0.27~1.06)であった。

 重篤な有害事象の発生率はトファシチニブ群で14.1%、プラセボ群で12.0%であった。トファシチニブ群では深部静脈血栓症(DVT)、急性心筋梗塞、心室頻拍、心筋炎を発症した患者がそれぞれ1例、プラセボ群では出血性脳卒中、心原性ショックを発症した患者がそれぞれ1例見られた。

 以上を踏まえ、Guimarães氏らは「COVID-19肺炎の入院患者において、プラセボと比べてトファシチニブは28日間の死亡または呼吸不全のリスクを低下させた」と結論。また、「死亡などの副次評価項目については検出力が不足していたために差は示されなかったが、効果の方向性はトファシチニブが優位であった」と述べている。

抗ウイルス薬との併用効果は不明

 さらに、Guimarães氏らは対象者の89.3%が入院中にグルココルチコイドによる治療を受けていた点に言及し、「COVID-19による入院患者に対しては、グルココルチコイドを含む標準治療にトファシチニブを追加することで臨床イベントのリスクが低下することが今回のRCTで示された」と説明。一方で、このRCTの進行中、ブラジルではCOVID-19の標準治療薬の1つであるレムデシビルが使用できなかったため、「確立された抗ウイルス薬へのトファシチニブ追加のベネフィットについてはエビデンスが得られなかった」としている。

 なお、同氏らは早期COVID-19患者の治療に関しては「現時点のエビデンスに基づけば、早期COVID-19患者には抗ウイルス療法が有効である可能性が最も高い」とし、「炎症の過剰な亢進による臨床症状は進行した段階で見られるため、軽症、中等症、重症のCOVID-19入院患者で抗炎症薬による治療が必要」と訴えている。

 日本では今年(2021年)4月、経口JAK阻害薬のバリシチニブがCOVID-19肺炎の治療薬として承認されたが、レムデシビルとの併用下におけるバリシチニブの有効性を示したRCTであるACTT-2と今回のSTOP-COVIDから、同氏らは「侵襲的機械換気は導入されていないCOVID-19肺炎の入院患者の治療において、JAK阻害薬が追加の治療選択肢となりうることを裏付けるエビデンスが得られた」との見解を示している。

(岬りり子)