透析患者は低免疫状態にあるため新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患すると重症化、死亡リスクが高くなることが知られている。日本国内におけるCOVID-19に罹患した透析患者の死亡率は29.2%(2021年5月27日時点)であり、非透析患者に比べ極めて高率である。十分な感染予防策が必要とされるなか、東京都済生会中央病院腎臓内科の吉藤歩氏と慶應義塾大学病院感染制御部の高野八百子氏は、第66回日本透析医学会(6月4~6日、ウェブ併催)で講演し、透析施設という特殊な環境における感染対策の方法と工夫について解説した。

新型コロナに感染の透析患者の致死率は高い

 日本透析医会、日本透析医学会、日本腎臓学会の3学会合同による新型コロナウイルス感染対策合同委員会が作成した「透析施設におけるCOVID-19感染症例報告」(2021年5月27日時点)によると、国内でCOVID-19に罹患した透析患者は1,758例で、致死率は14.2%(250例が死亡)。転帰不明を除く致死率は29.2%にも上る(250/856例)。

 透析施設では、これまで集団感染(クラスター)事例の発生も報告されており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を施設内に持ち込まない、またウイルスが入ってきても感染が広がらないための取り組みが重要となる。そもそも透析施設は①密閉された空間で週3回長時間を共有②ベッドを共有③送迎車、更衣室、待合室などを共有―など、感染が極めて伝播しやすい独自の問題が存在する。

患者ごとのリネンの交換は非現実的、工夫して対応を

 吉藤氏は、まず施設にウイルスを持ち込まないための対策として、患者教育の徹底を挙げた。毎日の体温測定と健康状態の把握、通院時の送迎車乗車前の体温と症状の確認、施設到着後の症状の再チェックにより、「患者に通常と異なる症状はないか注意し、施設はいかに早く感染者を見つけることが大事」と述べた。

 また、施設内の医療従事者はCOVID-19罹患の高リスク群であるとして、感染伝播を防ぐ対策として、常にサージカルマスクと必要な個人防護具を着用し、標準予防策を徹底する。エアロゾルが発生する場合にはN95マスクやゴーグルなどの着用が必要である。透析室の衛生環境も常に保つ必要があるが、吉藤氏は「透析室のどこが清潔でどこが不潔かをつい忘れて行動することがある」と課題を示した上で、透析装置外装、透析ベッドの柵、オーバーテーブル、椅子、補聴器、体温計、血圧計は使用後に清拭することに加え、常に喚気をすることも求めた。

 透析終了後はリネンの交換が推奨されているが、日本透析医会が2021年2月に発表した「血液透析患者のCOVID-19予防・診療体制調査」の結果(同会会員施設約2,200施設が有効回答)によると、国内におけるCOVID-19罹患例発生が確認されてから、リネンを患者ごとに交換している施設は34.4%にすぎなかった(図1-左)。

図1.透析実施ごとのシーツ交換の実施状況

28389_fig01.jpg

 高野氏は「本来リネンは患者ごとに交換すべきである。しかし使用済みリネン、未使用のリネンそれぞれの保管場所の確保、予備の充足、交換の労力を考えると明日から変更できるような簡単な話ではない」としながらも、「課題があるからといってそのままにするのではなく、少なくとも感冒症状がある患者、おむつ交換を行った患者など特定のケースでの交換や、図1-右のようにディスポシーツでリネンの一部を保護するなど、できるところから一歩ずつ少しでも改善に向けて取り組むことが大事」と助言した。

COVID-19罹患者受け入れは、時間的・空間的隔離で対応可能

 では、透析患者でCOVID-19罹患者が発生した場合、透析施設はどう対応すべきなのか。

 吉藤氏は「透析施設でCOVID-19罹患者を受け入れることは容易ではない」と述べつつも、実際には、発熱してCOVID-19が否定されるまで患者が透析を控えることは難しく、また隔離室を備えた透析施設は多くはないといった透析医療独自の問題を挙げた。前述の日本透析医会の調査結果によると、透析施設の5割弱が「個室で隔離して透析を行うことは不可能」と答えており、また25%は「COVID-19罹患者と非感染患者に分けて、医療スタッフが対応するのは不可能」と回答していた(図2)。

図2.透析施設でCOVID-19罹患者を受け入れるのは容易ではない

28389_fig02.jpg

 (図1、2とも日本透析医会『血液透析患者のCOVID-19予防・診療体制調査結果報告書』から抜粋)

 そのため同氏は、患者に対し動線が交わらない来院時間、来院経路を施設が指示するなどして「透析の実施時間を感染者と非感染者で午前と午後に分けるなど滞在時間をずらす『時間的隔離』、および飛沫距離を考慮して患者を配置する『空間的隔離』を行うことが推奨される(図3)」と述べた。空間的隔離を行う場合には、周囲のベッドとの間隔を2m以上空けて、カーテンや衝立てで仕切るなどの工夫が必要になるとした。

図3.透析施設内での空間的な隔離と時間的な隔離

 

(日本透析医会『新型コロナウイルス感染症に対する透析施設での対応について(第5報)』から抜粋)

 また、高野氏はCOVID-19罹患者をケアする医療スタッフの個人防護具にも言及。日本環境感染学会が策定した『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版』に従って対策を実施するが、透析施設ではもともと『透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン (五訂版)』などに基づき標準予防策を徹底しているため、追加対策としては、常時マスク着用する程度だという。

 透析中にエアロゾルが発生するような処置がある場合にはN95マスクの着用が求められるが、「COVID-19罹患者の対応をするからといって、全身を覆うような防護具やN95マスクが必要なわけではない。防護具使用に当たっては、汚染しないように脱ぐことやフィットチェックの実施など適切な使用をする」よう求めた。

 一方、COVID-19罹患者の退院後の透析施設での受け入れ方法についても考えを示した。高野氏は「退院基準に基づき、退院後は隔離勧告が解除されているので他の透析患者と同じ場所と空間で透析実施は可能」としつつ、「施設の設備、環境、スタッフの配置などを考えると現状では本当に感染しないのかという懸念もあるだろう」と指摘。ただし、隔離勧告は解除されているため「施設としての運用上のルールを決めておくとよい」とした。例えば、退院後2週間症状の再燃がないことを確認するといった方法を挙げた。

コロナ感染拡大で、格段に進んだ施設の感染予防対策

 以上を踏まえ、吉藤氏はSARS-CoV-2感染拡大を契機に「透析施設における感染予防策は格段に進んだ」としながらも、透析施設の医療スタッフに対して「自分は感染しているかもしれないという意識を持って、慎重に行動する」ことを求めた。また、透析施設にはCOVID-19罹患者を隔離して透析できる環境が少なく、敷地面積の限界で十分な距離を保ちながら透析を施行するのは難しく、さらには医療スタッフも足りないといった独自の問題がある。そのため、有用な感染拡大防止策として、「SARS-CoV-2ワクチン接種により施設内感染を抑えられる」とし、「できるだけ早い段階で多くの患者にワクチン接種すると同時に、患者の接種歴を把握・記録してほしい」と訴えた。

(小沼紀子)