オランダ・Erasmus University Medical CenterのAlis Heshmatollah氏らは、ロッテルダム研究に参加した成人約1万5,000人を平均12.5年追跡した結果、脳卒中発症者では発症10年前から認知機能や生活機能の低下が認められ、その低下速度は非発症者に比べて速いとJ Neurol Neurosurg Psychiatry2021年7月6日オンライン版)に報告した。

MMSEは発症8年前から低下

 脳卒中患者における脳卒中発症後の認知機能や日常生活機能の低下に関する研究は進んでいるが、発症前の機能低下についてはほとんど分かっていない。そこでHeshmatollah氏らは、加齢に伴う疾患の発症とその規定因子を長期にわたり追跡調査するロッテルダム研究に登録された45歳以上のオランダ・ロッテルダム住民1万4,926人を1990~2016年に追跡し、脳卒中発症前後の認知機能・日常生活機能の変化を検討した。参加者は、登録時と4年ごとに自宅でのインタビューおよびリサーチセンターでの検査・認知機能検査を受けた。検査は認知機能検査〔Mini-Mental State Examination(MMSE)、15単語学習検査、文字数字置換検査、ストループ検査、言語流暢性検査、パーデューペグボード〕、基本的日常生活動作(BADL)検査、手段的日常生活活動(IADL)検査を行った。

 平均12.5±6.8年の追跡期間中に1,662人が脳卒中を発症(発症時平均年齢80.3歳)し、うち1,000人が女性(60.2%)だった。性と出生年を基に、脳卒中発症者と非発症者を1:3でマッチングし脳卒中発症前10年間と発症後10年間の認知機能および日常生活機能の変化を検討した。

 その結果、脳卒中非発症者に比べて発症者では、全ての認知機能検査の点数が発症前の段階で低下していた。MMSEの点数は発症8年前、ストループ検査の点数は発症10年前、パーデューペグボード検査の点数は発症9年前に低下し始め、それぞれ6.4年、5.7年、3.8年前の段階で非発症者との有意差が認められた。15単語学習検査、文字数字置換検査は両者に有意差は認められなかった。脳卒中発症後は非発症者と比べて全認知機能検査の点数の低下速度が速かった。

 日常生活動作については、脳卒中非発症者に比べて発症者ではBADL検査の点数が発症8年前、IADL検査の点数が発症7年前に低下し始め、それぞれ発症2.2年、3.0年前の段階で有意差が認められた。脳卒中発症10年後に発症者は非発症者と比べてBADL 、IADLの点数が低かった。脳卒中発症後は非発症者と比べてBADL 、IADL検査の点数の低下速度が速かった。

女性、apoEε4キャリアで低下が速い

 男女で比べると、女性の方が男性よりもMMSE(女性:発症10年前、男性:8年前)とBADL(それぞれ発症6年前、4年前)の点数が発症前早期に低下し始め、発症後も女性の方がMMSEとBADLの低下速度が速かった(それぞれ相互作用のP=0.01 、 P<0.0001)。

 アポリポ蛋白(apo)E遺伝子の保有別で見ると、apoEε4アレルキャリアは非キャリアと比べて脳卒中発症前も発症後もMMSEの低下速度が速かった(相互作用のP<0.0001)。しかし、BADLの低下とapoE遺伝子との関連はなかった。

 教育レベルについて見ると、教育レベルが低い者では高い者に比べて脳卒中発症前も発症後もMMSEの低下速度が速かった(それぞれ相互作用のP<0.0001、P<0.001)。

 以上を踏まえて、Heshmatollah氏らは「われわれの知見から脳卒中を将来発症する者では、発症の10年前から非発症者とは異なる認知機能や生活機能の低下曲線を描いていることが示された。すなわち、認知機能や生活機能が同世代よりも低下している者は、脳卒中リスクが高く、脳卒中の予防が必要と考えられる」と結論。「認知機能や生活機能の低下が進んでいる将来の脳卒中発症予備軍では、発症の何年も前から脳小血管病、神経変性、炎症などの脳損傷が蓄積している可能性が示唆された」と説明している。

(大江 円)