これまでに、プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用と胃がん発症リスクの関連を示唆する研究は複数報告されているが、一般人口と比較したものが多く、時間関連バイアスの疑いもあり、リスクが過大評価されている可能性があった。カナダ・McGill UniversityのDevin Abrahami氏らは、英国のビッグデータを用いてPPIとヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の新規使用者で胃がん発症リスクを比較。PPI使用者の胃がん発症リスクは、H2ブロッカー使用者と比べ1.45倍であったが、絶対リスクは小さいとGut2021年7月5日オンライン版)に発表した(関連記事「ピロリ除菌後PPI長期使用で胃がんリスク上昇」「『長期PPIに胃がんリスク』の研究に疑問点」)。

過去最大・最長の追跡で、新規治療開始例のみを比較

 PPIは、強い酸分泌抑制力と比較的高い安全性を背景に、上部消化管潰瘍や胃食道逆流症の治療、Helicobacter pylori(H. pylori)除菌などに広く用いられている。その一方で、ガストリン分泌を亢進させ、壁細胞の過形成を惹起する可能性があるため、胃がん発症との関連は生物学的に否定できない。ただし、これまでの研究は、リスクの程度を特定するのに十分とはいえなかった。

 Abrahami氏らは、1,500万人超の患者データを有する英国の大規模プライマリケアデータベースCPRDから、1990年1月~2018年4月に適応疾患に対してPPIまたはH2ブロッカーを新規に開始した患者、それぞれ97万3,281例と19万8,306例を特定。人口統計学、生活習慣、併存疾患、適応疾患、併用薬について想定される各種の交絡因子を考慮した傾向スコアを用いて、標準化死亡比を推算し、モデルの重み付けを行った。その際、対象期間中のさまざまな変化を考慮するために、5年ごとに傾向スコアを調整した。

 Cox比例ハザード分析により胃がん発症のハザード比(HR)を、Kaplan-Meier法により有害必要数(NNH)を算出した。さらに、二次解析で使用期間および用量反応などとの関連を検討した。

HR 1.45、5年NNHは約2,100例

 追跡期間中央値は、PPI使用群が5.1年、H2ブロッカー使用群が4.2年で、それぞれ1,166例、244例が胃がんを発症。10万人当たりの粗発症率は23.9人、25.8人で、両群に差はなかった(HR 0.92)。

 しかし、暦年を調整後の解析では、胃がんリスクがH2ブロッカー使用群に対しPPI使用群で34%上昇し(HR 1.34、95%CI 1.14~1.57)、全ての交絡因子を調整したモデルではH2ブロッカー使用群に対しPPI使用群で45%上昇した(HR 1.45、95%CI 1.06~1.98、)。

図. PPIおよびH2ブロッカー使用と胃がん発症率の関係

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Gut 2021年7月5日オンライン版

 PPI使用により胃がんを1例発症するのに必要なNNHは、治療開始から5年後で2,121例、10年後で1,191例であった。

 治療開始からの期間、PPI・H2ブロッカー間での切り替え例、残存交絡因子などを調整して6通りの感受性解析を実施したが、結果は一貫していた。

 Abrahami氏らは「大規模データを用いた実臨床研究により、PPIの新規使用者ではH2ブロッカー新規使用者と比べて胃がんリスクが高い可能性が示唆された。ただし、絶対リスクは小さい」と結論。「エビデンスに基づいたPPI使用の臨床ベネフィットは確立されているが、特に長期使用やエビデンスを伴わない使用においては、治療継続の必要性を定期的に評価する必要がある」と付言している。

(小路浩史)