もはや日本人の生活様式に不可欠ともいえる温水洗浄便座(以下、温水便座)。多くの医療機関でも導入されているが、温水便座を介して多剤耐性緑膿菌(MDRP)を伝播させるリスクがあると、東京医科大学病院感染制御部・感染症科准教授の中村造氏が第31回欧州臨床微生物学会議(ECCMID 2021、ウェブ開催7月9~12日)で報告。ECCMIDはリリースを発表し、英国のTimesDaily Mailなどでも報じられた。(関連記事「忘れてませんか?間仕切りカーテン感染対策」)

ノズルを介して院内拡大する可能性

 中村氏らは、2020年9月~21年1月に同院病棟トイレに設置した温水便座のノズルから検体を採取した。このトイレを使用していたのは、重症敗血症2例を含むMDRP感染患者3例。DNAフィンガープリント法を用いてノズルから採取した検体と3例から検出されたMDRP株が同一株かどうかを調べた。

 MDRPはイミペネム、メロペネム、アミカシン、シプロフロキサシンなど、少なくとも2種類の抗菌薬に耐性を示す株と定義した。

 解析の結果、患者検体と温水便座ノズルの検体で株が一致し、全ての検体で緑膿菌ST235クローンが優勢であった。そのため、温水便座の使用を介して菌の移行が生じた可能性が示唆された。

 同氏は「今回の発表は、温水便座使用と院内感染の関連性について検討した初の報告であり、今後の感染制御策に大きな影響を及ぼすと考えられる」と述べた。

「この知見はMDRPが患者コミュニティー内で伝播される可能性を示しており、汚染された温水便座のノズルを介して院内に拡大する懸念がある」と同氏は指摘している。その一方で、手指衛生や清掃・環境整備といった感染症対策が十分に行われていれば、患者の免疫系が低下した場合も感染拡大を抑制できるとしている。

 ただし今回の結果は、単一の医療機関病棟における小規模研究に基づくものであり、遺伝子解析では患者からノズルへの感染移動なのか、その逆なのかは見分けられないなどの限界もあると付言した。

(田上玲子)