アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬といったレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬を使用していた高齢者のうち、血液脳関門(BBB)を通過する種類のRA系阻害薬使用者(BBB通過RA系阻害薬群)では、BBBを通過しない種類のRA系阻害薬使用者(BBB非通過RA系阻害薬群)に比べ、記憶力が優れていたとするメタ解析の結果が示された。米・University of California, IrvineのJean K. Ho氏らがHypertension2021年6月21日オンライン版)に報告した。

日本を含む6カ国1万2,849例を解析

 高血圧は高齢者の認知機能低下および認知症の確立された危険因子の1つである。さらに、高血圧患者に対し、収縮期血圧(SBP)を140mmHg未満に保つ標準的な降圧治療に比べ、120mmHg未満に保つ厳格な降圧治療では軽度認知障害(MCI)リスクが19%有意に低下したとする大規模臨床試験SPRINT MINDの結果(Blood Press 2018; 27: 247-248)などから、降圧治療は認知機能に好ましい影響をもたらす可能性が示唆されている。

 一方、認知機能に最も有益な影響を与える降圧薬の種類に関しては一貫した研究結果が得られていないものの、ARBやACE阻害薬といったRA系阻害薬の有益性を示唆する報告が複数ある。また、少数ではあるがRA系阻害薬の中でもBBBを通過しない薬剤に比べ、通過する薬剤の使用者では認知症リスクが低下していたとの報告もある。

 そこでHo氏らは、RA系阻害薬をBBBを通過する種類(カプトプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、テルミサルタン、カンデサルタンなど)と通過しない種類(ベナゼプリル、エナラプリル、キナプリル、オルメサルタン、イルベサルタン、ロサルタンなど)に分類。7つの認知機能領域(注意、実行機能、言語、学習記憶、想起記憶、精神状態、情報処理速度)に与える影響について検討するため、6カ国(オーストラリア、カナダ、ドイツ、アイルランド、日本、米国)における14のコホートデータを用いたメタ解析を実施。ベースライン時に認知機能が正常であった50歳以上の男女計1万2,849例のデータを、Newcastle-Ottawa Scaleを用いて各認知機能領域を評価し、スコアリングした。

最長3年間の追跡期間において想起記憶に優れる

 検討の結果、BBB非通過RA系阻害薬群と比べ、BBB通過RA系阻害薬群では血管リスクが高かったにもかかわらず、最長3年の追跡期間における想起記憶の効果量は0.07(95%CI 0.01~0.12、P=0.03)と有意に優れていた。

 一方、注意力はBBB非通過RA系阻害薬群の方が有意に優れており、同群に対するBBB通過RA系阻害薬群の効果量は-0.17(95%CI -0.23~-0.10、P=0.02)だった。ただし、この結果にはBBB非通過RA系阻害薬群における血管リスクの低さが影響している可能性が考えられた。その他の5領域では効果量に有意差は認められなかった。

 Ho氏らは、研究の限界として人種・民族差が考慮されなかったこと、BBB通過薬の使用群では男性の割合が高かったことなどを挙げた上で、「BBBを通過するRA系阻害薬は記憶力低下の抑制に関連することが示唆された」と結論。全体的な効果量は低かったものの、より長期の経過においては効果が大きくなることが想定されるとし、「今回の解析結果は、脳内に移行する種類のACE阻害薬やARBが記憶力の維持と関連することを裏付ける最も強力なエビデンスを示したものだ」と付言している。

(岬りり子)