エコチル調査九州大学サブユニットセンター/九州大学小児科准教授の古賀友紀氏らの研究チームは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の約10万人のデータを使用して、乳児期の小児がんと両親が職業上で取り扱った医療用物質との関連について解析。詳細をPediatric Research(2021年7月9日オンライン版)に報告した。

1歳までのがん発症との関連を検討

 エコチル調査は、胎児期~小児期にかけての化学物質曝露が子供の健康に与える影響を明らかにするため、2010年度から全国で10万組の親子を対象に行われている大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。母体血や臍帯血、母乳などの生体試料を採取保存・分析するとともに追跡調査を行い、子供の健康に影響を与える環境要因を明らかにすることを目的としている。国立環境研究所に研究の中心機関を置き、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された九州大学など15の大学に地域における調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。

 小児がんは、はっきりとした原因は分かっていないものの、これまでの研究でさまざまな環境因子の関与が指摘されている。医療従事者は、有害な影響を与えうる医療用物質を業務として取り扱うことがあるが、これまでに妊婦が職業上で取り扱った医療用物質と出生した子供における乳児期の腫瘍との関連を検討した報告はなかった。 そこで、両親が職業上で取り扱った医療用物質と出生児の1歳までのがん発症との関連を検討した。

放射線を取り扱った母親の子供で神経芽腫のリスク高い

 今回の解析対象は、2018年3月に確定した妊婦とその出生児約10万組および父親約5万人のデータのうち、性・出生体重・両親の医療用物質の取り扱いおよびがんに関するデータがそろった9万2,619人の子供とした。

 対象の子供の母親のうち、妊娠期間中に月1回以上、医療用物質を扱っていたのは放射線が2,142人(2.3%)、抗がん薬が1,298人(1.4%)、麻酔薬が1,015人(1.1%)だった。がん発症数を見ると、1歳までに15例の神経芽腫、8例の白血病、3例の脳腫瘍を認めた。放射線を取り扱った 2,142人の妊婦からの出生児のうち神経芽腫を発症したのは3例、発症率は10万人当たり140.1例で、取り扱っていない妊婦から生まれた子供の発症率(10万人当たり13.3例)と比べて高い傾向にあった(P=0.005)。なお、この3例のうち2例の母親は抗がん薬と麻酔薬を取り扱っていたが、これら3種類の医療用物質を取り扱った妊婦から出生した子供で、白血病や脳腫瘍発症例はなかった。

 多変量解析を行ったところ、放射線を取り扱った母親の子供における神経芽腫の発症率比は10.68(95%CI 2.98~38.27)だった。

 一方、父親の情報は母親の約半数の4万5,000人で得られ、月1回以上、医療用物質を扱っていたのは放射線が1,446人(3.2%)、抗がん薬が289人(0.6%)、麻酔薬が328人(0.7%)だった。父親のデータが得られた子供約4万5,000人においては神経芽腫7例、白血病と脳腫瘍が各3例認められたが、これらの医療用物質を取り扱った父親はいなかった。

 以上の結果を踏まえ、研究グループは①質問票から得られた情報を使用したため医療用物質の取り扱いの様式・時間・量およびがんの分類などが分からない②神経芽腫を発症した児の症例数が少ない③父親の情報は母親の約半数―などを研究の限界として挙げた上で、「今回の研究は、妊婦の医療用物質の取り扱いと子供の神経芽腫に関連がある可能性を示した最初の報告。結果はあくまでも可能性を示したもので、本当かどうかを見極めるには、動物実験でのメカニズムについての研究や国際的な小児がん登録を含めた詳細な検討が必要」と述べている。

編集部