自己抗体である抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)抗体陽性の緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)患者の中には、長期にわたってインスリン治療を必要としない例が存在するが、そうした患者を予測する因子を特定したと名古屋大学大学院糖尿病・内分泌内科学教授の有馬寛氏らの研究グループがDiabetologia(2021年7月15日オンライン版)に発表した。BMI高値、HbA1c低値、GAD抗体価低値の3つの因子を有するSPIDDM患者では、診断から4年経過後もインスリンが不要だったとしている。

インスリン非依存性の患者を予測してインスリンを回避

 1型糖尿病は、膵β細胞の急速な破壊によってインスリン分泌が低下または枯渇し高血糖状態となる疾患で、一般的に自己免疫が発症に関与していると考えられている。さまざまな自己抗体が陽性になるが、その1つが膵臓のインスリン分泌細胞などに存在する酵素であるGADに対する自己抗体である抗GAD抗体だ。1型糖尿病患者では抗GAD抗体が陽性になる場合が多く、診断に有用な自己抗体とされている。

 1型糖尿病はその進行速度によって、「劇症」「急性発症」「緩徐進行(SPIDDM)」の3タイプに分類される。抗GAD抗体が陽性で発症時にインスリンを必要としない糖尿病患者は、数カ月または数年でインスリン依存性に進行し、自己免疫性糖尿病のサブタイプであるSPIDDMまたは成人潜在性自己免疫性糖尿病(LADA)と診断される。

 そのため、SPIDDMやLADAではインスリン分泌をつかさどる膵β細胞の機能低下を予防するためインスリン療法が推奨されている。ただし、一部の患者では長期にわたりインスリン依存状態に進行しないことが知られている。また、インスリン療法には低血糖や体重の増加、インスリン抗体の誘導などの副作用があるため、SPIDDMと診断された患者の中でインスリンを必要としないインスリン非依存例を特定できれば、インスリン療法以外の治療を検討することができる。

3因子を有する患者で、診断後の4年間インスリンが不要に

 そこで、研究グループは、SPIDDM患者におけるインスリン非依存例を予測する因子を同定するための後ろ向きコホート研究を実施した。まず東海地方の医療機関8施設における抗GAD抗体陽性者の電子カルテデータを調査。日常の臨床診療で測定可能な指標を利用し、SPIDDMの診断基準に一致し、診断時から治療経過を追跡可能な患者345例を抽出した。平均3年間の追跡期間中に、162例がインスリンを開始(インスリン群)し、183例がインスリンを必要としなかった(非インスリン群)。

 このうち、非インスリン群では、①インスリン群と比べて男性の比率が高い②糖尿病の発症年齢が高齢③糖尿病の罹病期間が短い④BMI値が高い⑤血圧が高い⑥HbA1c値が低い⑦抗GAD抗体価が低い⑧抗GAD抗体陽性時の糖尿病薬の使用率が低い傾向があるーといった特徴が見られた。

 多変量解析の結果、インスリンの導入と関連する独立した因子として、BMI値、HbA1c値、抗GAD抗体価の3因子が抽出された。さらに、Kaplan-Meier解析を行ったところ、①BMI高値(22以上)②HbA1c低値(9.0%未満)③抗GAD抗体価低値(10.0U/mL未満)ーの全てを満たすSPIDDM患者の86.0%が、診断から4年経過後もインスリンを使用していなかった。

 研究結果を踏まえ、研究グループは「抗GAD抗体陽性のSPIDDMにおいて、長期にわたってインスリン依存に至らない患者の予測が期待できる。また、そうした患者では、従来行われていた予防的インスリン投与を回避できる可能性がある」と期待を寄せている。今後は前向きコホート研究を実施した上で、実際に予後予測にどの程度有用であるか検証することを予定しているという。

(小沼紀子)