血液凝固第Ⅺ因子(FⅪ)の活性型と不活性型の両方を阻害するモノクローナル抗体abelacimabは、新規の抗凝固薬として期待されている。ベルギー・Katholieke Universiteit LeuvenのPeter Verhamme氏らは第Ⅱ相非盲検並行群間エノキサパリン対照ランダム化比較試験(RCT)ANT-005 TKAにおいて、abelacimabが出血リスクを高めることなく人工膝関節置換術(TKA)施行後の静脈血栓塞栓症(VTE)発症を最大80%抑制したと国際血栓止血学会(ISTH 2021、7月17~21日、ウェブ開催)で発表。詳細はN Engl J Med2021年7月19日オンライン版)に同時掲載された(関連記事「VTE予防に新クラス薬,第Ⅺ因子阻害薬がエノキサパリン上回る効果」)。

不活性型および活性型のFⅪを阻害

 TKA後のVTE予防には、凝固系における外因系と内因系の合流部に当たる第Xa因子(FXa)を主に阻害する低分子ヘパリンのエノキサパリンが使用されるが、同薬には出血リスクが伴う。手術部位の組織因子は、外因性血液凝固経路を介して術後VTEを引き起こすとされるが、FⅪが関与する内因性血液凝固経路とVTEとの関連は明らかでなかった。

 FⅪ阻害薬abelacimabは、FⅪとその活性型であるFⅪaの両方に作用する新規の完全ヒト型モノクローナル抗体。静脈内投与後、用量依存性にFⅪの凝固活性を速やかに低下させ、TKA後のVTE抑制効果が期待されている。

30mg、75mg、150mgを術後単回投与

 Verhamme氏らは、TKA施行後のVTE予防におけるエノキサパリンとabelacimab(3用量)の有効性および安全性を検討するRCTを実施。

 対象は、2020年6~11月に欧米5カ国16施設で登録した待機的初回片側TKA施行予定の18~80歳の患者412例。活動性出血および出血高リスク、VTE既往歴、慢性腎臓病、肝疾患などを有する者は除外した。術後4~8時間にabelacimab 30mg、75mg、150mgを単回静注する群(盲検法)と手術前夜から術後12時間にエノキサパリン40mg(非盲検法)を1日1回皮下投与し静脈造影を行うまで継続する群に1:1:1:1でランダムに割り付けた。

 TKA施行後、抗凝固療法または静脈造影を実施しなかった症例などを除外したところ、解析対象はabelacimab 30mg群102例(年齢中央値67歳、女性87%)、75mg群99例(同67歳、81%)、150mg群98例(同68歳、79%)、エノキサパリン群101例(同67歳、80%)だった。

 有効性の主要評価項目はVTEの発症とし、TKA施行後8~12日目の手術側下肢静脈造影または症候性イベントにより検出した。安全性の主要評価項目は術後30日までの大出血または臨床的に意味のある非大出血の複合とした。

75mg、150mg群でVTE予防に優越性示す

 検討の結果、VTE発症はエノキサパリン群の22例(22%)に対し、abelacimab 30mg群、75mg群、150mg群ではそれぞれ13例(13%)、5例(5%)、4例(4%)と少なかった。エノキサパリン群と比べたVTE抑制効果は、abelacimab 150mg群で最大となり、81.8%に上った。

 またエノキサパリン群に対するabelacimab 30mg群の非劣性(リスク差−9.2%ポイント、95%CI −19.4~1.1%ポイント、P=0.08)、75mg群(同−16.8%ポイント、−26.0~−7.6%ポイント)および150mg群(同−17.8%ポイント、−26.7~−8.8%ポイント)の優越性(各P<0.001)が示された。

 全群で大出血の発生はなかったが、臨床的に意味のある非大出血はabelacimab 30mg群で2例(2%)、75mg群で2例(2%)に発生した。術前および術後のヘモグロビン値と輸血の頻度は、全群でほぼ同等だった。

 重篤な有害事象は、abelacimab 30mg群、75mg群、150mg群でそれぞれ1例(創感染・コロナウイルス感染症)、3例(手術部位感染症1例、イレウス1例、卵巣囊腫茎捻転1例)、1例(手術部位感染症1例)に見られたが、エノキサパリン群では認められなかった。

第Ⅱ相ANT-006試験が進行中

 以上の結果から、Verhamme氏らは「abelacimabは、従来の抗凝固薬であるエノキサパリンに比べて出血リスクを高めることなく術後VTEリスクを大幅に低減した」と結論。

 共著者でカナダ・Thrombosis and Atherosclerosis Research InstituteのJeffrey I. Weitz氏は「TKA後のVTE予防に関して、abelacimabがFⅪの下流にある凝固因子を阻害するエノキサパリンよりも効果的だったという結果は、血栓形成におけるFⅪの重要性を示唆するものである。先天性FⅪ欠乏症患者は血栓リスクが低いものの、自然出血はまれである。そのため、FⅪは従来よりも安全な抗凝固薬の標的として期待される」と述べている。

 また、共著者で米・Anthos TherapeuticsのDan Bloomfield氏は「抗凝固療法には常に出血リスクへの懸念が伴う。今回の研究で出血リスクの増加が認められなかったabelacimabは、そうしたアンメットニーズに応えられる可能性がある。現在、脳卒中リスクを有する心房細動患者を対象に、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンとabelacimabで出血リスクを比較する第Ⅱ相ANT-006試験が進行中であり、どのような結果が出るか非常に注目している」とコメントしている。

(坂田真子)