新型コロナウイルス感染が急拡大する中、菅義偉首相の危機感が見えにくくなっている。抑止に向けたメッセージ発信が乏しいためで、「説明と説得が全く足りない」(立憲民主党の枝野幸男代表)との声が上がる。医療崩壊を危惧する専門家との溝は広がっており、苦言も相次いでいる。
 「橋本大輝選手、体操個人総合で日本勢3大会連続となる金メダルおめでとうございます!」。首相は29日、自らのツイッターにこう書き込んだ。五輪開幕後、日本勢が金メダルを獲得するたびにツイッターを更新しているが、感染対策の呼び掛けは21日に投稿して以降、一度もない。
 28日に全国の新規感染者が過去最多を更新しても首相は内閣記者会の取材要請を拒否。その理由を要請に応じた29日に記者団から詰められると、「(緊急事態宣言などの)一定の方向性を示す中で対応している」と述べるにとどまった。
 29日は記者団に対し「危機感」を口にしたものの、むしろワクチン接種で重症化リスクの高い高齢者の割合は減っていると強調する場面もあった。首相にはいたずらに不安をあおりたくないとの思いがあるとみられるが、首相周辺は「感染減少の対策は何でもやる」と焦りを隠さない。
 専門家は危機感を募らせている。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は29日の参院内閣委員会で「今の最大の危機は社会一般の中で危機感が共有されてないことだ」と警鐘を鳴らした上で、政府に強いメッセージの発信を求めた。
 ある専門家は、首相の「人流も減っている」との発言に関し、「人流が減っているから大丈夫だと言うが、どのデータか示してほしい」と不満を示した。ワクチン効果を訴える姿勢については「接種していない重症者の発生は続く。首相も危機意識を持ってほしい」と訴えた。
 別の専門家は「東京の医療が崩壊するような状況で選手がメダルを取っても心から喜べない」と語り、感染対策の徹底を求めた。
 野党は批判を強めている。立民の枝野氏は記者会見で「首相から真摯(しんし)なメッセージが発信されない限り、(対策の)効果が出ないのは当然だ」と指摘。共産党の田村智子氏は参院内閣委で「首相に危機感を感じない」と酷評した。 (C)時事通信社