糖尿病の管理に運動は不可欠だが、適切な身体活動量および運動強度の獲得が課題となっている。デンマーク・Centre for Physical Activity ResearchのMathias Ried-Larsen氏らは、がんと栄養に関する欧州前向き調査EPICに参加した糖尿病患者約7,500例において、サイクリングを実施した群では非実施の対照群に比べ死亡リスクが約20~30%低下したと、JAMA Intern Med2021年7月19日オンライン版)に報告した。

運動強度が中等度~高度で死亡リスクに寄与する可能性

 糖尿病患者は、早死や心血管疾患 (CVD)の発症リスクが一般集団より高いことが知られている。定期的な身体活動は糖尿病管理における重要な行動目標であるだけでなく、CVDリスクの低下に寄与する。

 コホート研究のうち糖尿病患者では、身体活動と歩行数が全死亡およびCVD死と逆相関することが示されている。ただし中等度の運動強度の歩行のみが両死亡リスクの低下と関連するとの報告があるなど、歩行とリスク低減に一貫した関連性は示されていない。

 また糖尿病患者では、十分な身体活動量および強度の運動を継続することが特に大きな課題となっている。サイクリングは通勤手段にも置き換えられる運動で、運動強度が中等度~高度に達するため、死亡リスクの低下に寄与する可能性がある。

 一般集団においては、サイクリングと全死亡およびCVDなどの疾患死との逆相関が確認されているが、糖尿病患者に対するサイクリングの有効性は検討されていない。そこでRied-Larsen氏らは、糖尿病患者のサイクリングと死亡リスクの関連について、EPICのデータを用いて検討した。

 なおEPICは、欧州10カ国(フランス、イタリア、スペイン、英国、オランダ、ギリシャ、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)23施設で登録された大規模前向きコホート研究である。

1週間に1分以上の実施で全死亡リスクが低下

 EPICに参加した49万2,763例のうち、ベースライン調査時に糖尿病を有していたのは1万995例だった。

 解析対象は7,459例(平均年齢55.9歳、女性52.6%、平均糖尿病罹病期間7.7年、サイクリング習慣なし63.0%)。5,423例がベースライン調査(1992~98年)および第2回調査(1996~2011年)を完了した。ベースライン調査ではサイクリングに費やした1週間当たりの時間、第2回調査ではベースライン調査後のサイクリング習慣の変化について自己申告してもらった。

 全体では11万944人・年(平均14.9年)の追跡期間中に全死亡が1,673例、CVD死は811例発生した。ベースライン時にサイクリング習慣の報告がなかった対照群に比べ、習慣があったサイクリング実施群では、以下の通り全死亡リスクの有意な低下が認められた。

  • サイクリングが1~59分/週:調整後ハザード比(aHR)0.78(95%CI 0.61~0.99)
  • サイクリングが60~149分/週:同0.76(同0.65~0.88)
  • サイクリングが150~299分/週:同0.68(同0.57~0.82)
  • サイクリングが300分/週以上:同0.76(同0.63~0.91)

 またCVD死については、サイクリングを60~149分/週および150~299分/週実施した群で有意な低下が認められた。

  • サイクリングが1~59分/週: aHR 0.79(95%CI 0.56~1.11)
  • サイクリングが60~149分/週:同0.75(同0.60~0.93)
  • サイクリングが150~299分/週:同0.57(同0.44~0.76)
  • サイクリングが300分/週以上:同0.80(同0.62~1.03)

途中でサイクリングを開始した患者群でもリスク低下

 第2回調査でサイクリングに費やす時間に変化があった5,423例では、5万7,802人・年(平均10年)の追跡期間中に全死亡が975例、CVD死は492例発生した。

 2回の調査ともサイクリング習慣がなかった対照群と、サイクリングを途中でやめた群で全死亡リスクに有意差はなかった(aHR 0.90、95%CI 0.71~1.14)。しかし、ベースライン調査後にサイクリングを始めた群(同0.65、0.46~0.92)、2回目の調査時もサイクリング習慣があった群(同0.65、0.53~0.80)では、いずれも全死亡リスクの有意な低下が認められた。

 同様にCVD死についても、サイクリングを途中でやめた群では有意差はなかった(aHR 1.03、95%CI 0.75~1.41)のに対し、ベースライン調査後にサイクリングを始めた群(同0.53、0.31~0.90)、2回の調査ともサイクリング習慣があった群(同0.56、0.41~0.75)では有意なリスク低下が見られた。

同研究にはサイクリングによる事故発生記録も重要

 以上の結果から、Ried-Larsen氏らは「糖尿病患者を長期追跡した検討から、サイクリング実施と危険因子を調整後の全死亡およびCVD死亡リスク低下との関連が示された。ただし、明確な用量反応関係は示されなかった」と結論。サイクリングと死亡の用量反応関係を詳しく分析するには、サイクリング量の測定とサイクリング関連の事故、サイクリング中の大気汚染による呼吸器疾患への影響などについての検討が必要であると付言している。

(田上玲子)