【ベイルート時事】長引く政治空白や不況、新型コロナウイルス禍などに伴い経済が破綻状態に陥った中東のレバノンで、深刻な物資不足が市民生活を脅かしている。外貨が足りず国外からの燃料調達は滞り、停電が常態化。基幹病院では電力に加えて医薬品や水の確保にも支障が生じており、綱渡りの状況に悲鳴が上がる。
 首都ベイルートのラフィク・ハリリ大学病院。同国最大の公立病院として初めてコロナ患者を受け入れ、ワクチン接種所も設けているほか、高額な私立病院に通えない貧困層も診療するなど首都の医療を支えてきた。だが、最近では異変が起きている。
 院内の薬剤部を訪れると、大量の医薬品が並ぶはずの棚には少量が残るのみ。薬剤師の女性は「輸入が止まり、抗生物質や安価な薬すら足りない」と嘆いた。赤十字国際委員会(ICRC)の支援を受けるが、「紛争や災害対応の医療品も多く、ニーズに合わない場合がある」という。
 薬だけではない。フィラス・アビアド院長によると、最近では約36時間連続で停電に見舞われ、7台ある自家発電機をフル稼働して乗り切った。7月下旬には初めて外部業者から水を購入。「現代の病院に電気と水は不可欠。電気がなければ人工透析や手術はできず、水が不足すれば衛生悪化で感染症の温床となる」と危機感を募らせる。
 さらに、通貨ポンドが公定レートの約12分の1まで暴落し、生活困窮に嫌気が差した医師や看護師が大勢辞職。国外などへ流出した。アビアド院長は「優秀な人材の補充は容易ではない。医療の質が明らかに落ちた」と肩を落とす。
 ベイルート市内では節電のため信号や電光掲示板が消され、給油待ちの車の長蛇の列は当たり前の光景になった。市民からは「1日に数時間しか電気が来ず、自家発電に頼る余裕もない」との声が漏れる。
 国連児童基金(ユニセフ)は7月、経済危機によって7割超のレバノン国民が安全な水を得られないリスクに近くさらされると警告した。環境コンサルタント会社DIFAF(ベイルート)のフサム・ハウワ代表は、水をくみ上げる燃料や水処理用の消毒剤などがこのまま不足すれば「今後2~3カ月で事態が急激に悪化する可能性がある」と話している。 (C)時事通信社