胆道がん(胆管がん、胆囊がん)は日本人やアジア人で頻度が高く、わが国では6番目に死亡者数が多いがん種である。近年、遺伝子変異を標的とした分子標的治療が次々と開発され、がんゲノム医療時代に突入している。理化学研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームチームリーダーの中川英刀氏、北海道大学大学院消化器外科学Ⅱ教授の平野聡氏らの国際共同研究グループは、同大学病院の胆道がんの切除標本を用いてゲノム解析を実施。約半数にゲノム情報に適合する治療薬が存在したことをOncotarget2021; 12: 1540-1552)に報告した。

ゲノム異常の情報をアジア人最大規模のデータベースと照合

 胆道がんで長期生存が期待できる治療は外科的切除だが、転移や浸潤が多いことに加え、周囲に重要な血管が多数存在するため、根治的手術が困難なケースが多い。切除不能例や再発例に対し有効な化学療法や分子標的治療は乏しく、5年生存率は27%と極めて難治性である。

 近年、胆道がんにおいても、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)1遺伝子変異陽性例に対するIDH1阻害薬、選択的線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)融合遺伝子陽性例に対するFGFR阻害薬の開発が国内外で進んでいる(関連記事「ペミガチニブ、FGFR2陽性進行胆道がんで国内承認」「大鵬、自社創薬のFGFR阻害薬が進行胆管がんでFDA画期的治療薬に」)。一方、さまざまながん種に対し免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性が示されているが、胆道がんにおいてはその有効性は完全には示されていない。

 研究グループは同大学病院で切除した219例の胆道がん標本(肝内胆管がん66例、肝門部胆管がん63例、遠位胆管がん49例、胆囊がん41例、半数以上がステージ3以上)のゲノム解析データを再解析してゲノム異常データを集約。統合的ゲノム解析により、630の微小な遺伝子変異〔一塩基バリアント(SNV)またはindel〕、1,027のコピー数異常(欠失または増幅)、51の融合遺伝子の情報を得た。

 これらのゲノム異常を、韓国・サムソン病院のがんゲノム医療のデータを集約したアジア人最大規模のがんゲノム知識データベースと照合して変異と適合する治療薬の探索を行った。

219例中74例で適合する分子標的薬が同定

 その結果、74症例の22の遺伝子変異に対し、適合する治療薬が同定された()。PTEN欠失に対するPI3K阻害薬が16例と最も多く、CDKN2AのSNV/indelまたは欠失に対するCDK阻害薬が15例と続いた。また多くの症例で、PIK3CAのSNV/indelまたは増幅に対するPI3K阻害薬、ERBB2のSNV/indelまたは増幅に対するHER2阻害薬の適合も認められた。

図. 分子標的薬の適合が期待される遺伝子変異の頻度

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(理化学研究所/北海道大学プレスリリースより)

 さらに、FGFR1/2/3の融合または増幅が15例(肝内胆管がん9例、肝門部胆管がん1例、胆囊がん3例、遠位胆管がん2例)で示され、今年(2021年)3月に承認されたFGFR阻害薬ペミガチニブによる治療が期待できるという。

 予後解析では、PTENCDKN2Aのゲノム異常がある胆道がんの予後は不良であることが示され、PI3K阻害薬またはCDK阻害薬による治療が期待される。

ICIの効果が期待できる症例も同定

 ICIについては、RNAシークエンス解析のデータを基に、PD-1/PD-L1の発現とがん組織内のT細胞関連遺伝子(細胞傷害性T細胞に特異的に発現している遺伝子)の発現を解析。その結果、35例でPD-1/PD-L1およびT細胞関連遺伝子がいずれも高発現しており、これらの症例でICIの効果が期待される。

 以上の結果を統合すると、47.9%(219例中105例)の胆道がん症例について、ゲノム情報と適合する治療薬が存在することが明らかとなった。研究グループは「胆道がんにおいてもがん遺伝子パネル検査やその他のゲノム検査を積極的に導入することで、変異に適合する分子標的薬またはICIを用いたゲノム医療、臨床試験の進展が期待される」と結論している。

  • 一塩基〜数塩基の挿入または欠失

(安部重範)