高齢化が進む日本や英国などの先進国では、認知症による社会的な負荷が増している。認知症対策に解決の糸口はあるのか。筑波大学ヘルスサービスリサーチ分野の岩上将夫氏らは、183万人超を最大23年間追跡した英国の医療ビッグデータを解析。その結果、LDLコレステロール(LDL-C)値が39mg/dL上昇すると認知症リスクが5%高まる可能性が示唆されたと、Lancet Healthy Longev2021年7月23日オンライン版)に発表した。

40歳以上の男女95万人超を解析

 日本をはじめとする先進諸国では、認知症が社会および医療に与える負担は小さくない。しかし、認知症治療薬の開発は容易でなく、新規治療薬が登場しても高額な医療費が課題となる。

 一方、認知症予防に関する知見は蓄積されつつある。Lancetの認知症委員会は、予防可能な認知症の危険因子として、12項目(低学歴、高血圧、難聴、喫煙、肥満、うつ、運動不足、糖尿病、社会的接触の少なさ、飲酒、脳外傷、大気汚染)を挙げている。しかし、血中脂質と認知症との関連は基礎研究での結果にとどまり、大規模臨床研究では明らかにされていない。

 そこで岩上氏らは、英国の医療ビッグデータであるプライマリケアデータベースClinical Practice Research Datalink(CPRD)から、1992~2009年に血中総コレステロール(TC)値を測定した40歳以上の一般住民185万3,954万人(測定時の年齢中央値59歳、男性90万5,830人、女性94万8,124人)を抽出。血中脂質と認知症との関連を検討した。解析対象はLDL-C値を算出した95万3,635人で、追跡期間は初回のTC測定から2015年1月までとした(中央値7.4年、最長23年間)。LDL-C値は、TC値と同時に測定したHDLコレステロール(HDL-C)およびトリグリセライドの値から算出した。

 主要評価項目は、追跡期間中のかかりつけ医または専門医による認知症の診断(脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症、その他)とした。

40~64歳でのLDL-C上昇かつ追跡期間10年以上で17%リスク上昇

 Poisson回帰モデルを用いた多変量解析では、喫煙歴、飲酒歴、肥満度、糖尿病や高血圧などの併存疾患、処方薬などを調整後の認知症リスクはLDL-C値が39mg/dL(1.01mmol/L)上昇するごとに5%上昇した〔調整発生率比(aRR)1.05、95%CI 1.03~1.06〕。

 初回TC測定時の年齢(40~64歳 vs. 65歳以上)と追跡期間(10年未満 vs. 10年以上)で層別化した解析では、初回測定時の年齢が40~64歳と低く、かつ追跡期間が10年以上と長い集団で、認知症リスクが17%上昇した(aRR 1.17、95%CI 1.08~1.27)。この集団をLDL-C値5分位で見たところ、最高値群(190mg/dL以上)の認知症リスクは、最低値群(100mg/dL未満)に比べ59%高かった(aRR 1.59、95%CI 1.13~2.22)。

アルツハイマー型と強い関連

 さらに、認知症のタイプ別に解析したところ、アルツハイマー型認知症とLDL-Cとの関連が比較的強かった(aRR 1.11、95%CI 1.08~1.14)。

 なお、トリグリセライドやHDL-Cの値と認知症との関連はほとんど認められなかった。

 以上から、岩上氏らは「LDL-C高値は認知症の危険因子であり、特に比較的若い時期(40~64歳)のLDL-C高値が、長期間(10年以上)経過してから認知症リスクを上昇させる可能性が示唆された」と結論。これを踏まえて「LDL-Cを予防可能な認知症の危険因子に加えるよう働きかけを行っていく」と付言している。

(比企野綾子)