8日閉幕の東京五輪。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言下で、菅義偉首相は競技のほぼ全てを無観客とするなど「安全・安心の大会」実現を目指したが、国内は爆発的な感染急増が止まらない。国民に危機感を伝えきれないまま、医療崩壊などの事態を招けば、政権への打撃は避けられない。
 「これまでに経験したことのない感染拡大が進んでいる」。首相は5日、政府の新型コロナ対策本部でこう訴えた。その一方で、首相はこの日も含めて連日のように、日本選手の金メダル獲得をツイッターで祝福。自民党内からは「はしゃいでいるように見える」(中堅)との不満が漏れる。
 コロナ禍の五輪開催に、国民の視線は厳しい。首相は6日の記者会見で「五輪が感染拡大につながっているという考え方はしていない」と影響を否定したが、政府による帰省の自粛、飲食店の酒提供停止などの呼び掛けが、理解を得られにくくなっているのは明らかだ。政府分科会の尾身茂会長も「五輪をやるということが人々の意識に与えた影響はあるのではないか」と指摘した。
 大会中、感染力の強いデルタ株の猛威は全国に波及し、陽性者は累計で100万人を突破。首相は緊急事態宣言の拡大・延長に追い込まれた。政府関係者は「東京は危ない状況だ。このまま行けば重症者や死者が増える」と警鐘を鳴らし、一部の専門家は全国への宣言発令を求める。
 五輪の祝祭ムードを政権浮揚につなげ、衆院選や自民党総裁選を乗り切る―。そんな首相の目算は感染拡大で狂った。菅内閣の支持率は過去最低水準に落ち込み、好転する兆しは見えない。
 この間、重症者ら以外は自宅療養を基本とする政府の新方針は、与党の反発を受けて「中等症も原則入院」と説明の修正に追い込まれた。首相が切り札と位置付けるワクチン接種も、都市部などでは予約が取りづらい状況が続く。
 政権内で五輪開催の評価は定まらない。「世界中のアスリートが頑張っているのを見て、やれてよかった」(河野太郎規制改革担当相)との声がある一方、自民党幹部は「五輪が盛り上がるほど、『なぜワクチン接種が進まないのか』という批判になる」と懸念を隠さない。
 野党は「五輪を政治利用しようという考えが愚かだ」(立憲民主党幹部)と対決姿勢を強める。
 24日には東京パラリンピックが始まる。官邸幹部は「淡々とやるだけだ」と中止論を否定。政府は近く、大会組織委員会や東京都などとの5者協議を開き、観客の扱いを決めるが、31日が期限の緊急事態宣言は再延長の可能性も取り沙汰されており、五輪同様に無観客となる公算が大きい。 (C)時事通信社