横浜市立大学大学院医学研究科分子薬理神経生物学教授の五嶋良郎氏とサンフォード・バーナム・プレビス医学研究所、ハーバード大学の共同研究グループは、統合失調症患者の脳内だけでなく末梢血中で活性型CRMP2が過剰に増加することを発見。発症初期の診断に有効なバイオマーカーとなり得るとの研究結果を、PNAS(2021年8月3日オンライン版に発表した。CRMP2は神経回路の形成に重要な役割を持つ蛋白質で、今回の発見により初期の若年の統合失調症を迅速かつ低侵襲で診断補助するツールになり得ると期待を示している。 

双極性障害患者の脳内で活性型CRMP2が減少

 脳内の神経細胞は、その繋ぎ目であるシナプスを介して、適切に情報を送ったり受け取ったりすることで、考える、動かすなどの働きを生み出している。シナプスの構造の形成・維持、または信号の受け渡しを行うために蛋白質などの分子群が集積しており、それらによってシナプスの機能は適切に調節されている。このシナプスのバランスが崩れたりするなどして異常が生じると、統合失調症などの精神疾患を来すと考えられている。

 現時点では、統合失調症患者の診断に利用できるバイオマーカーが存在しないため、病因の理解や診断を困難にしている。バイオマーカーが見つかれば診断のための検査が容易になり、新たな治療薬の開発も期待できる。

 研究グループは以前、双極性障害患者の脳内で活性型CRMP2が減少していることを見いだした。双極性障害と同様、統合失調症は若年者での発症例が多い精神疾患であることから、今回、研究グループはCRMP2に着目し、統合失調症との関連について検討を行った。

脳内だけでなく末梢血中でもCRMP2が存在

 まず、統合失調症患者の死後の脳検体(統合失調症罹患群)と健常者の脳検体を用いて、比較。その結果、統合失調症患者の脳内ではシナプスの形態が変化し、活性化型CRMP2の割合が増加する傾向があることが確認された。

 次に、活性型CRMP2がヒト末梢血中においても検出可能であるかなどを検証するため、40歳以下の若い統合失調症患者21例、非罹患者37例の血液検体とカルテ情報などを入手。それらを比較したところ、統合失調症患者の末梢血中では活性化型CRMP2濃度が有意に高く、30歳未満で最も顕著であることが明らかになった。一方、不活性化型CRMP2濃度は患者と非罹患者で同等だった。

 研究グループは、統合失調症患者における活性型CRMP2と不活性型CRMP2濃度の不均衡により「シナプスの形成、成熟、伝達の異常を引き起こす可能性が考えられる」と結論。また、「末梢血中のCRMP2濃度は、統合失調症患者の脳内の状態を反映している可能性があり、患者の診断を補助する迅速かつ低侵襲性の血液マーカーになる得る」と期待を寄せた。

(小沼紀子)