日本感染症学会は8月6日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する薬物治療の考え方 第8版」を公式サイトで公開した。今年(2021年)7月19日に厚生労働省が特定承認した抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブ(商品名ロナプリーブ)が、軽症・中等症のCOVID-19患者に投与可能な薬剤として追加された。同薬は原則発症から7日以内に投与が必要で、安定的な供給が難しいことから、現状では重症化リスクがあり、入院治療を要する患者に限定されている。そのため誰でも気軽に使用できる薬剤とはいえないが、自宅療養患者が急増し死亡例も報告されていることからも、本来使用の対象となる軽症・中等症例に薬剤が届くような仕組みが求められる(関連記事「抗体カクテル、コロナ家庭内感染を予防」)。

軽症のCOVID-19患者に使用できる初の承認薬

 COVID-19に対する薬物治療は、①抗ウイルス薬(レムデシビル、ファビピラビル)②抗体医薬(回復者血漿、高度免疫グロブリン製剤、中和抗体薬カシリビマブ/イムデビマブ③免疫調整薬・免疫抑制薬(デキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブ)④抗凝固薬⑤その他ーに大別される。指針では、主に①②③の有効性や安全性、投与対象患者などについて詳細に記載している。

 今回新たに治療選択肢として加わったカシリビマブ/イムデビマブは2種類の抗体医薬が含有された製剤で、同時に投与するため抗体カクテル療法とも呼ばれる。日本で4剤目に承認されたCOVID-19治療薬で、軽症例に使用できる初めての薬剤。これらのうち、COVID-19患者の死亡リスク低減が示された薬剤としては、デキサメタゾンに続き2剤目となる(関連記事「コロナ治療にデキサメタゾンを追加、厚労省」)。

 カシリビマブ/イムデビマブは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイク蛋白質の受容体結合ドメインに対する抗体であり、高い抗ウイルス作用を発揮することが期待されている。体内のSARS-CoV-2に2種類の抗体が結合し、発症から時間が経過していない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示されている(

図. COVID-19患者の重症度と治療の考え方

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(『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する薬物治療の考え方 第8版』を基に編集部作成)

 投与対象となるのは、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児。COVID-19の重症化リスクがあり、投与時に酸素投与が必要ない患者に限られる。1回点滴静注する。

 重症化危険因子を有する患者の定義は①50歳以上②肥満(BMI 30以上)③心血管疾患(高血圧を含む)④慢性肺疾患(喘息を含む)④1型または2型糖尿病⑤慢性腎障害(透析患者を含む)⑥慢性肝疾患⑦免疫抑制状態ーのうち少なくとも1つを満たす者としている。

軽症患者に使用可能も、現状は使用に高い障壁

 軽症~中等症Ⅰ相当(酸素投与が不要)の COVID-19患者に対し、カシリビマブ/イムデビマブの有効性や安全性を検証した海外第Ⅲ相試験COV2067では、速報値においてプラセボ群と比べカシリビマブ/イムデビマブ群でCOVID-19による入院または死亡リスクを70%低下させる効果が示された(関連記事「抗体カクテル療法で入院・死亡リスク7割減」)。

 軽症患者に投与できる薬剤が登場したことは朗報だが、実際には使用の障壁は高いと言わざるをえない。問題点としては、①点滴静注製剤という煩雑性(医療現場が逼迫している状況で対応が難しい)②症状発現から7日以内に投与(投与までの時間の制約)③投与対象は入院治療を要する重症化リスクのある軽症患者だが、現実にはこうした患者の入院が困難な状況にある④国内で安定的な供給が限られているーなどが挙げられる。

 また、指針では使用に際しての注意点を挙げており、①高流量酸素療法または人工呼吸管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある②同薬の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては有効性が期待できない可能性があるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報を踏まえ、投与の適切性を検討する③COVID-19の症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において症状発現から8日目以降に投与を開始した患者では有効性を裏付けるデータが得られていないーとしている。

医療現場で起きているミスマッチ

 このように患者数が急拡大している現状では、投与対象の制限または供給の両面からも、軽症例が投薬を希望してもスムーズに受けることは難しい。実際、政府は投与対象について、外来患者は対象外とし、在宅患者を含め50歳以上、または基礎疾患のある入院患者を対象としている。

 国立がん研究センター中央病院感染症部部長の岩田敏氏は、8月11日にヤンセンファーマが開催したCOVID-19に関するメディア勉強会で講演し、カシリビマブ/イムデビマブの使用にあたっての課題を指摘。「軽症または中等症Ⅰ(呼吸不全なし)のCOVID-19患者に積極的に使用し、重症化を防ぐことが大事。ただ、現在、医療機関の入院例は重症度分類で中等症Ⅱ(呼吸不全あり)に該当する患者がほとんどであり、カシリビマブ/イムデビマブの適応となる軽症例はほとんどいない。本来は、軽症または中等症Ⅰ例への使用により重症化を防げるの薬剤なので、これらの患者に使用できる仕組みを考えていく必要がある」と述べた。また、「経口の抗ウイルス薬などが実用化されれば外来での治療も可能になる」との見方を提示しつつ、さまざまな製薬企業が薬剤の開発を進めているが、早期の実用化は難しいとの見通しも示した。

 自宅療養患者が急増しており、東京都では8月9日時点で1万7,000人を超え、1カ月前の11倍超となっている。自宅や宿泊施設において療養中に容体が急変して死亡する例も報告されていることからも、特に自宅では家族内感染を防ぐ観点からも、患者へのフォローアップと合わせて、重症化予防の観点から本来対象となるべき患者層に速やかにカシリビマブ/イムデビマブが投与できる体制を構築し、医療現場で生じているミスマッチを解消することが喫緊の課題といえよう。

(小沼紀子)