新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、血栓症の発症頻度が高く、死亡・合併症リスクを増大させることからヘパリン製剤の予防的な使用が推奨されているが、用量などについての統一見解は示されていない。治療用量ヘパリンの血栓症予防効果を検討した3件の多国籍大規模非盲検ランダム化比較試験の結果をまとめた論文2報がN Engl J Medに掲載。中等症例の解析(2021年8月4日オンライン版)と重症例の解析(2021年8月4日オンライン版)で相反する結果が示され、その理由などについて付随論評(2021年8月4日オンライン版)で考察がなされている(関連記事「コロナ関連血栓症、ヘパリンの至適用量は?」)。

中等症では治療用量投与が優位、重症例では効果なし

 共通プロトコルを用いて実施された3試験(ACTIV-4、REMAP-CAP、ATTACC)では、9カ国121施設でCOVID-19患者3,300例超を登録。ヘパリンまたは低分子量ヘパリン(LMWH)の治療用量を投与する群と予防用量を投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は入院後21日時点のOSFD〔organ support-free days:集中治療室(ICU)でのケアや人工呼吸器、昇圧薬、体外式膜型人工肺(ECMO)、高流量酸素療法が不要であった日数〕とした。

 中等症例での検討では、治療用量群の予防用量群に対するOSFDの優位性が示され試験は早期終了。最終解析において、年齢、性、施設、D-ダイマー値、登録時期を調整後の予防用量群(1,048例)に対する治療用量群(1,171例)のOSFDのオッズ比(OR)は1.27〔95%確信区間(Crl)1.03~1.58〕で、治療用量投与の優位性確率は98.6%と高かった。登録時のD-ダイマー値別の解析でも治療用量投与の優位性は一貫していた。

 また、organ supportを必要とせず生存退院した患者の割合は、治療用量群が80.2%、予防用量群が76.4%だった(調整後の群間差4.0%ポイント、95%Crl 0.5~7.2%ポイント)。

 大出血は治療用量群の1.9%、予防用量群の0.9%で認められた。

 一方、重症例での検討では、事前に設定された無益性の基準に達し早期終了となった。1,098例における最終解析で、OSFDの調整後ORは0.83(95%Crl 0.67~1.03)だった。

機序についての洞察とリスクベネフィットの見極めが必要

 COVID-19重症例において治療用量ヘパリン投与の優位性が認められなかった点について、オランダ・Maastricht University Medical CenterのHugo ten Cate氏は同誌の付随論評で、重症例の血栓症・炎症は、さまざまな因子が介在するカスケードにより引き起こされるため、主としてアンチトロンビンに作用するヘパリンのみでの予防は困難であることや、既に血栓症・炎症による損傷が進展していた可能性に言及。他の抗血栓療法や線溶療法の必要性を指摘している。

 一方で、同氏は①重症例と中等症例の登録に地理的・民族的格差があった②治療用量群と予防用量群で登録・終了時期が異なる③重症例の予防用量群の約半数で実際には中間用量が投与されていた―ことを挙げ、調整後の解析でもこれらの因子が結果に影響を及ぼした可能性を指摘している。

 同氏は「これまでのエビデンスは、COVID-19重症例に対する治療用量のヘパリン投与を推奨していない。中等症例においては、中間用量と治療用量のどちらが有効で安全なのかの結論は出ていない」と述べ、COVID-19関連血栓症におけるヘパリンまたはLMWHの作用機序についての考察と、個々の患者において出血リスクがベネフィットを上回るのか否かの検証を、取り組むべき課題として挙げている。

  • 米国、カナダ、英国、ブラジル、メキシコ、ネパール、オーストラリア、オランダ、スペイン

(小路浩史)