不安やストレスは交感神経系を活性化し、心拍数の増加と血圧の上昇を招くことが知られている(Cogn Behav Ther 2006; 35: 216-225)。一方で、不安や疼痛は音楽を聞くと和らぐことも報告されている(J Med Toxicol 2017; 13: 249-254Clin J Pain 2012; 28: 329-337)。フランス・Hôpital CochinのGilles Guerrier氏らは、白内障手術前に音楽を聞くことが血圧に与える影響を検証し、手術中の血圧上昇の予防に効果が認められたとJAMA Ophthalmol2021年7月29日オンライン版)に発表した。

Uシークエンスに基づいた音楽でリラックス

 白内障手術中の血圧上昇と85回/分を超える頻拍は、局所麻酔注射時の眼窩出血や脈絡膜上の駆逐性出血を引き起こす危険性がある(Ophthalmology 1991; 98: 202-209)。そこで Guerrier氏らは、術前に音楽を聞かせる介入が血圧上昇の軽減に効果があるのかどうかを検討した。

 白内障手術を受ける309人を音楽群154人、対照群155人にランダムに割り付けた。平均年齢は音楽群が68.5歳(女性53.9%)、対照群が69.2歳(女性60.0%)であった。

 音楽群には、Uシークエンステクニックが応用された曲をヘッドフォンで聴かせた。Uシークエンスとは、楽器の数やテンポ、音量が決められ、刺激的なリズムから遅いリズム、再びテンポのよいリズムへと段階的に移行することで、リスナーが徐々にリラックスできるように設計された音楽であり、不安や痛みの軽減に対して効果があることが発表されている(Ann Readapt Med Phys 2005; 48: 217-224Dement Geriatr Cogn Disord 2009; 28: 36-46Ann Fr Anesth Reanim 2007; 26: 30-38)。対照群は同じヘッドフォンを装着するが、音楽は流さない。両群ともにアイマスクも装着して手術直前に20分間の介入を行った。

 主要評価項目は、手術中に少なくとも1つの高血圧イベントが発生することとした。高血圧イベントは収縮期血圧160mmHg超、および/または拡張期血圧100mmHg超で、同時に85回/分を超える頻拍の発生と定義した。

 副次評価項目は、音楽介入終了時点での不安の程度、手術中に投与された抗不安薬の平均量、手術時間の長さとした。不安のレベルはVisual Analogue Scale (VAS)によって評価され、音楽介入の前後、術前、術後で記録した。

音楽群で高血圧イベント発生率が約40%ポイント抑制

 検討の結果、手術中の高血圧イベントの発生率は音楽群で13.6%(21件)、対照群で52.9%(82件)と、音楽群で39.3%ポイント(95%CI 21.4%~48.9%、P<0.001)有意に低かった。

 不安のレベルについては音楽群では介入後のVASスコアが介入前より1.9ポイント(95%CI 1.1~4.8ポイント、P=0.003)改善していた。さらに、両群で手術直前のVASスコア平均値を比較すると、音楽群で1.4ポイント、対照群で3.1ポイントと、有意差(P=0.005)が確認された。手術中に使用したミダゾラム注射の平均本数を比較すると、音楽群では0.04本であったのに対し対照群では0.54本であり、こちらも有意差が見られた(P<0.001)。手術時間については、音楽群でわずかに短くなったものの、大きな差は見られなかった。

 以上を踏まえ、Guerrier氏らは「白内障手術前に音楽を聞くことで、不安が軽減され、血圧上昇の抑制と、鎮静薬を減らす効果が見られた」と結論。さらに「この方法はスマートフォンなどのアプリで簡単に提供可能であり、他科のより大きな外科手術に対しても有効な可能性がある」と期待を示している。

(平吉里奈)