神経ブロック療法は即効性があり強い鎮痛効果が期待できるものの、効果には限界がある。平田ペインクリニック(福岡県)院長の平田道彦氏は第55回日本ペインクリニック学会(7月22~24日、ウェブ併催)で、神経ブロック療法と漢方薬の併用で疼痛に対する治療効果が高まる症例や神経ブロック療法を施行せずに漢方薬のみで疼痛が軽減できる症例は、一般的に考えられているよりも多いと指摘。「神経ブロック療法と漢方薬を相補的に用いることで、理想的な疼痛治療の実現が見えてくる」と主張した。

神経ブロック療法と漢方薬の効果と限界を把握すべし

 まず平田氏は、神経ブロック療法と漢方薬の長所と短所について紹介した。

 神経ブロック療法の長所としては「即効性があり、強い鎮痛効果が期待できる」「持続的な効果が期待できる場合もある」という2点を、短所としては「抗凝固薬投与などが原因で施行困難なケースが少なくない」「重篤な合併症が起こる可能性がある」「効果が短期にとどまることも多い」という3点を挙げた。

 一方、漢方薬の長所としては「侵襲的ではない」「急性期から慢性期までに応用できる」「禁忌が少ない」「重篤な副作用はまれ」という4点を、短所としては「飲みにくいことがある」「即時的に効く場合もあるがまれ」「効果発現までの期間がまちまちで、数日~数週間かかる」という3点を挙げた。

 理想的な疼痛治療として、同氏は次の7点を挙げたが、神経ブロック療法と漢方薬のいずれも、「単独での実現は不可能である」と述べた。

  • 患者の状態にかかわらず適応できる
  • 苦痛を伴わない
  • 即効性がある
  • 持続的効果が期待できる
  • 副作用が少ない
  • コストが低い

 そこで、神経ブロック療法および漢方薬の効果と限界を知り、「両者を相補的に用いることで疼痛治療は理想に近づく」と同氏は主張。とりわけ、慢性疼痛に対し漢方薬がどの程度の効果を有するかは明らかでないことから、同氏は4症例を提示し、漢方治療が有効であったケースについて解説した。

8年間も歯痛に苦しんだ40歳代女性が1週間で症状改善

【症例1】

 2年前に全身の痛みを感じ、大学病院の膠原病内科で線維筋痛症と診断された50歳代の女性。プレガバリンやトラマドールなどさまざまな疼痛治療薬を服用したが、眠気が強く鎮痛効果も感じられなかったという。平田氏が診察した際は、ベッドに横たわったまま「全身が痛くてたまらない」と切々に訴えた。 

 同氏は症例が冷えの強い体質であることを勘案し、体を温め、痛みを和らげる作用のある麻黄附子細辛湯2.5gおよび桂枝加朮附湯2.5gをベッドサイドで湯に溶かし服用してもらったところ、15分後には痛みの改善が見られた。その後、漢方薬の服用を数週間続けた結果、Numerical Rating Scale(NRS)による痛みのスコアがほぼ0になるまで改善した。

【症例2】

 頸椎の異常により大後頭神経三叉神経症候群(GOTS)と診断され、顔面痛を訴えた30歳代の女性。GOTSには頸椎の椎間関節ブロックが奏効することが知られており、同氏も「以前であれば、頸椎のC2/3あるいはC3/4に椎間関節ブロックを施行していた」と述べた。

 しかし、GOTSによる痛みには関節の異常を改善する治打撲一方を中心とした漢方薬が極めて有効であるという。この症例には治打撲一方7.5gと末梢循環を改善する駆瘀血剤の桂枝茯苓丸加薏苡仁7.5gを処方し、毎食前に服用してもらったところ、服用開始から2日後には痛みが軽減し始め、2週間後には痛みがほとんど気にならない状態まで改善した。

【症例3】

 8年前に左奥歯に激痛を感じ、抜歯や根管治療を受けるも痛みが改善しなかった40歳代の女性。その後、大学病院のペインクリニックで神経ブロック療法を受けるも改善せず、同大学口腔外科を通して同氏に紹介された。

 症例の頸椎にはストレートネックが見られた。同氏は長年の歯痛の原因が頸椎にあるとみて、この症例にも桂枝茯苓丸加薏苡仁7.5gと頸部の緊張を和らげる葛根加朮附湯7.5gを1日3回食間に服用してもらったところ、1週間後にNRSスコアが10から1に改善した。

【症例4】

 4年半前に三叉神経痛に対し微小血管減圧術(Jannetta手術)を施行。1カ月前に再発し、カルバマゼピン200mgを服用するも改善しなかった30歳代の男性。五苓散5gと抑肝散5gを10時、20時に2回服用してもらったところ、痛みが改善した。

神経ブロック療法や手術療法後の神経症状には漢方薬が有効

 症例3について、平田氏は「神経ブロック療法と並行して漢方薬を検討していれば、8年もの長期にわたり歯痛に悩まされることはなかったと考えられる」と述べ、漢方薬の併用、あるいは漢方薬単独でも痛みが改善するケースは一般的に考えられているよりも多いと指摘。神経ブロック療法や手術療法後に生じた神経根症、仙腸関節障害、後頭神経痛などの神経症状には、特に漢方薬の併用が有用とした。

 また、漢方薬に神経ブロック療法を併用することで効果が期待できる疼痛性疾患の例として①初期の複合性局所疼痛症候群(CRPS):四逆散、抑肝散+交感神経ブロック②三叉神経痛の激痛発作(カルバマゼピンで効果が十分でない場合):五苓散・柴胡桂枝湯、桂枝加朮附湯、抑肝散+三叉神経ブロック③神経根症に伴う激痛:紫苓湯・四物湯、疎経活血湯など+硬膜外ブロック、神経根ブロック④筋緊張を一過性に緩和すべき慢性疼痛:漢方薬+トリガーポイントブロックーの4つを挙げた。

 同氏は「神経ブロック療法を施行しても痛みが改善しない症例に鎮痛補助薬を大量に処方した挙句、『その痛みは治らない。心因性の痛みと考えられるので、心療内科などの受診が勧められる』と、たらい回しにするような対応では患者の信頼を損ね、整骨院などへのドクターショッピングを招いてしまう」と指摘。「長期にわたり痛みに悩まされている患者に対しても、漢方薬が症状改善の糸口となる可能性は十分にある。神経ブロック療法と漢方薬の相補的治療アプローチは、理想的な疼痛治療の実現に近づくものと考えられる」と、発表を結んだ。

(渕本 稔)