抗HER2抗体トラスツズマブはHER2陽性の乳がんの治療薬として主に使用されるが、心毒性との関連が指摘されている。Early Breast Cancer Trialists' Collaborative group (EBCTCG)は、HER2陽性早期乳がん患者に対し、化学療法+トラスツズマブまたは化学療法単独の有効性と安全性を評価した複数のランダム化比較試験のメタ解析を実施。化学療法とトラスツズマブの併用により、早期再発リスクが47%低下したとの結果をLancet Oncol(2021; 22: 1139-1150 )に報告した。

解析対象は1万3,864例

 メタ解析に際し、2010年1月以前に行われ、術前/術後化学療法+トラスツズマブ(トラスツズマブ併用群)または術前/術後化学療法単独(化学療法単独群)を施行した手術可能なHER2陽性早期乳がん患者が対象のランダム化比較試験を抽出。ラパチニブやペルツズマブ、ネラチニブなどの分子標的療法へのトラスツズマブの上乗せ効果を検証したものは除外した。ベースライン時の背景、初発の乳がん遠隔転移、局所再発、二次原発がん、死亡のデータや死因について、患者ごとのデータを入手できた7件(①FinHER試験②NSABP試験B-31③NCCTG試験N9831④HERA試験⑤PACS 04試験⑥BCIRG 006試験⑦NOAH試験)の1万3,864例を解析対象とした。

 組み入れ基準は、大半の試験でリンパ節陽性またはリンパ節陰性であればグレード3と定義される腫瘍径1cm超〔エストロゲン受容体(ER)陰性〕あるいは2cm超(ER陽性)の高リスクHER2陽性例であった。

 主要転帰は、浸潤性乳がん(遠隔、局所、新規の対側乳がん)の再発、乳がん死、再発なしの死亡、全死亡とした。再発部位、年齢、追跡期間別など、事前に規定した主要サブグループ解析も行った。

トラスツズマブ併用で10年再発が9.0%ポイント減

 試験薬による治療は、2000年2月~05年12月に行われた。追跡期間中央値は10.7年で、乳がん再発が3,685例(26.6%)が、死亡が2,738例(19.7%:うち347例は乳がんと関連なしおよび再発記録なし)発生した。

 解析の結果、全ての試験で化学療法単独群に対しトラスツズマブ併用群における再発リスクの低下傾向が認められ、全体でも有意な低下が示された()。

図. 試験ごとに見た再発リスク

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 乳がん死の年間イベントの率比(RR)も0.67(95%CI 0.61~0.73、P<0.0001)と有意に低かった。 またトラスツズマブ併用により、10年再発が9.0%ポイント(95%CI 7.4~10.7%ポイント、P<0.0001)、10年乳がん死が6.4%ポイント (同4.9~7.8%ポイント、P<0.0001)、全死亡が6.5%ポイント(同5.0~8.0%ポイント、P<0.0001)いずれも減少し、平均絶対リスクの低下が認められた。浸潤性乳がん(遠隔、局所、新規の対側乳がん)の再発も遠隔(RR 0.63、99%CI 0.57~0.70)、局所(同0.72、0.59~0.89)ではトラスツズマブ併用群でリスクの低下が認められたものの、新規の対側乳がんのRRは0.93(同0.68~1.26)だった。

 追跡期間中の化学療法単独に対するトラスツズマブ併用の再発抑制効果は、0~1年時で最も高く(RR 0.53、99%CI 0.46~0.61)、2~4年時(同0.73、0.62~0.85)、5~9年時(同0.80、0.64~1.01)と、経時的に減弱していた。また、ER陽性または陰性で結果に顕著な差はなく、トラスツズマブ併用の10年再発リスクの平均絶対リスク低下率はER陰性が10.1%ポイント(95%CI 7.7~12.5%ポイント)、ER陽性が7.8%ポイント(同5.5~10.1%ポイント)だった。  

 また、年齢やBMI、トラスツズマブの投与期間などのサブグループ別に見ても、トラスツズマブ併用による再発抑制効果が認められ、化学療法とトラスツズマブ投与を同時に行った試験と、化学療法→トラスツズマブの順に行った試験との再発抑制効果にも差はなかった。  

 安全性ついては、うっ血性心不全(NSABP B-31試験:トラスツズマブ併用群3.8% vs. 化学療法単独群1.3%)などの心イベント発生率は全ての試験においてトラスツズマブ併用群で高かったが、全体として発現頻度はわずかであり、致死性心イベントも少なかった。  

 以上の結果を踏まえ、EBCTCGは「今回のメタ解析から、早期HER陽性乳がん患者に対する術後化学療法にトラスツズマブを併用することで、再発および死亡リスクを3分の1減少することが示された。至適化学療法はHER2のステータスにかかわらず乳がん死をおよそ3分の1減少させる効果が示されており、化学療法とトラスツズマブをいずれも用いない場合と比べ両者の併用によりHER2陽性乳がん患者の乳がん死リスクを半減できる可能性がある」と述べている。

編集部