国立国際医療研究センターと横浜市立大学、東京大学、虎の門病院(東京都)の研究グループは、2型糖尿病患者約113万人を対象に新規に処方された治療薬に関する全国調査を実施。その結果、欧米とは異なりDPP-4阻害薬が選択される割合が65%と極めて高いことを、J Diabetes Investig(2021年8月23日オンライン版)に発表した。なお、2位のビグアナイド(BG)薬は16%、3位のSGLT2阻害薬は8%であったが、SGLT2阻害薬は研究期間中に急速に処方率が上昇した。また、1年間の総医療費はBG薬が最も低く、最も高額なGLP-1受容体作動薬はその倍以上であったことも判明した。

2014~17年度に糖尿病治療薬を単剤処方された患者が対象

 日本国内における2型糖尿病の薬物療法は、欧米人との病態の違いなどを考慮し、特定の薬剤を第一選択薬とせず、全ての薬剤から病態などに応じて選択することを推奨している。そのため、BG薬(メトホルミン)を第一選択薬と位置付けている欧米と日本で処方実態に差があることが予想されていたが、詳細は不明だった。

 そこで、研究グループは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、2型糖尿病患者に対し新規に処方された薬剤の実態について明らかにする目的で全国規模の研究を行った。

 対象は、2014~17年度に新規に糖尿病治療薬(インスリンは除外)を単剤で開始した成人2型糖尿病患者113万6,723人。研究期間全体および調査年ごとの各薬剤の処方数、処方割合、新規処方に関連する因子を検討した。さらに、初回治療から1年間の総医療費を算出し、それに関連する因子も検討した。総医療費の解析対象は64万5,493人だった。

 対象の67.2%が60歳以上で、57.5%は男性だった。日本糖尿病学会(JDS)の認定教育施設の患者は10.7%だった。16.7%が虚血性心疾患の既往歴があった。研究期間中に、BG薬、スルホニル尿素薬(SU薬)、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、グリニド薬、GLP-1受容体作動薬の8種類の薬剤が処方された。

GLP-1受容体作動薬の処方率は0.2%と低い普及率

 糖尿病治療薬の処方率は多い順に、DPP-4阻害薬が65.1%、BG薬が15.9%、SGLT2阻害薬が7.6%、α-GIが4.9%、SU薬が4.1%、チアゾリジン薬が1.6%、グリニド薬が0.7%、GLP-1受動体作動薬が0.2%だった。

 研究グループは、初回治療薬としてDPP-4阻害薬の処方率が極めて高い理由について、「日本における糖尿病患者の高齢化、インスリン分泌不足、低脂肪、遺伝的背景、重症低血糖リスクが低い」ことなどを挙げている。

 処方率の推移を見たところ、2014年度(下半期のみ)から2017年度にかけてBG薬が経年的に上昇、SGLT2阻害薬は急激に上昇していたのに対し、DPP-4阻害薬とSU薬は低下傾向を示した。

図1. 新規処方された糖尿病治療薬別に見た処方率の年次推移

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 都道府県別に見ると、BG薬の処方率最高は沖縄県の33.3%、最低は香川県の8.7%、DPP-4阻害薬の最高は福井県の71.9%、最低は沖縄県の47.2%と、大きな地域差が認められた。

薬剤選択に最も影響した因子は?

 薬剤選択に影響する因子を検証したところ、最も強く影響したのは年齢で、高齢であるほどBG薬やSGLT2阻害薬の処方割合は低かった。対照的にDPP-4阻害薬やSU薬の処方率は高齢になるに従い上昇した。

 年代別に見たDPP-4阻害薬の処方率は、40歳代が48.8%、50歳代が56.8%、60歳代が65.4%、70歳代が74.4%、80歳代が80.7%、90歳以上が82.6%と年代に正比例した。逆に、SGLT2阻害薬は、20歳代(15.5%)、30歳代(15.6%)が最高で、90歳以上(2.0%)が最も低かった。BG薬も同様の傾向を示し、20歳代が最高(45.1%)で、90歳以上(2.9%)が最も低かった。

図2. 年代別に見た糖尿病治療薬の新規処方率

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(図1、2とも国立国際医療研究センターのリリースより抜粋)

心血管疾患危険因子保有者でSGLT2阻害薬の処方が30%増

 BG薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬の処方に関連する因子について多変量解析を行った。その結果、処方年度、性、年齢×保険種区分、虚血性心疾患、慢性腎不全の合併、施設タイプ、病床数との有意な関連が認められた。

 高血圧や脂質異常症などの心血管疾患危険因子を有する者では、それらのない者に比べSGLT2阻害薬の処方が30%増加したのに対し、虚血性心疾患や慢性腎臓病(CKD)を有する者では、そうでない者に比べSU薬の処方がそれぞれ14%、29%減少した。

 また、2014年度から17年度にかけて、虚血性心疾患合併患者に対するSGLT2阻害薬の処方率が7倍以上上昇したのに対し、GLP-1受容体作動薬の処方率は虚血性心疾患の有無にかかわらず研究期間を通じて低かった。

GLP-1受容体作動薬の年間医療費は50万円超

 施設ごとの解析では、一定の施設差が見られたのはBG薬とDPP-4阻害薬だった。また、BG薬とSGLT2阻害薬は、JDS認定教育施設ではJDS非認定教育施設に比べ、処方率はそれぞれ1.3倍、1.1倍だった。

 初回処方から1年間の総医療費(中央値)も算出。BG薬が22万5,970円と最も低く、それにSU薬(25万5,630円)、チアゾリジン薬(25万8,025円)が続いた。比較的新しいクラスの薬剤に分類されるDPP-4阻害薬は31万3,760円、SGLT2阻害薬は29万2,030円だったのに対し、GLP-1受容体作動薬は52万150円と最も高額だった。

(小沼紀子)